第8話 美人を美人と書いてはいけない。

 小説の中で、美人を美人と書くことはタブーです。

 そこは作家の力量が問われるところでもあるので、細心の注意が必要です。

 これも以前、別の記事に書きましたが、当然と言えば当然ですよね。


 どんなところがどう美人なのか、どういうところが彼女の魅力で、彼女のどんなところに人は心を奪われるのか? そういう大切な部分をないがしろにすべきではないと思いますし、この部分こそ、読者に伝えるべき部分だと思っています。

 

 彼女の髪形、所作、彼女がいつも身にまとう洋服、彼女の趣味、まつ毛の長さ、そして口の形状、目の大きさ等、これは主人公のチャームポイントでもあるので、こういう大切な部分を省いて、一言、美人と書いて済ませてしまってはいけないように思うのです。


 彼女が付き合う異性は、こわもてのヤクザだったとか、こちらも一言で済ませてしまうのではなくて、例えば、左の額から左の眉毛の上に、たぎられた刀傷があったとか、眼光鋭く、獲物を狙うライオンのようだったとか、この部分には作家の全神経を研ぎ澄まして、言葉を手繰る必要があるように思います。


 美人を美人と書いてしまう作家によく散見される特徴としては、やたらバババンとか、スパパパンパンとか擬人語、擬態語のような言葉を多用したり、小説の多くを会話で成り立たせようとする怠慢さが散見されるように思います。


 一事が万事で、美人を美人と書いてしまう作家は、やはり風景描写も粗末であることが多いようにも見受けられますし、感情の波をうまく表現できないのかなとも思う。


 小説なんていうものは、心理描写、感情の描写が生命線であり、心理描写して、それとなく雰囲気を醸し出して、言葉を幾つも重ね、繰り返し言葉を駆使して言葉に重きを与えるのを良しとする。


 そしていかに読者の心に感情の波を与え、感情を揺さぶることにより、読む人に何かしらの思惑を起こし、考えさせるかにある。


 それが怒りの感情であることもあるし、悲しみの境地に誘うこともあり、歓喜に震えるような描写をいくつも繰り返して、読者に人生の酸いも甘いも含めた苦難を享受させるのが目的でもある。


 その肝心な描写の部分が粗末になってしまうというのは、大切な雰囲気を作り出す意味において、見過ごすことのできない欠陥があると言わざるを得ない。


 手を抜くところは思いっきり手を抜いてもいい。

 ただし、ここぞという時は、しつこいくらいの描写が必要だということも覚えておいてください。


 映画等でも番組宣伝(番宣)のコマーシャル、宣伝記事が劇場公開前によく流れますよね。


 そこで何かしら視聴者の頭の中に強烈な刺激を与える、キャッチコピー、決め台詞ぜりふが必要になってくるわけですが、この部分をないがしろにしてはいけないということです。


 自分が映画監督なら、自分の小説の、この描写、この擬態語、擬人語、叫び声を自分の映画のコマーシャルに間違いなく使う、そういう名場面と置き換えられる描写を、自分の小説の中に、いくつ仕込めるかで小説の出来映えは変わってくると思います。


 映画【シャイニング】のように、異常者が壁から横目で女性をつけ狙うような目つき、壁を斧が突き破る描写、そういう一番、視聴者が観たい情報、強烈にインパクトを与えるシーンを、小説の中にも、いくつかちりばめるべきです。


 自分が映画監督なら、自分の小説の、どのシーンを映画のCMに使うか?

 どの心理描写を小説のハードカバー、帯としての活字媒体に使うか?


 そういうシーンを想定しながら、自分の小説の中に強烈なインパクトを残す言葉を幾つか埋め込むべきです。


 読者はそういう作家の計算された描写の中で意図的に踊らされるわけですから、自分が最も効果的だと思える、影響を与えるシーン、キャッチコピーを無意識下で海馬に再生できるよう、文中に仕込むべきです。


 読者が読み終えた時、何も印象に残らない文章は決して紡いではいけないということです。プロットを含め、そこには計算された緻密さが求められるわけです。


 

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