第4話 登場人物を思いっきり奈落の底に突き落としてみる。

 登場人物を思いっきり奈落の底に突き落とす。

 それも1度だけではなく、2度、3度。

 果てしなく打ちひしがれ、そしてそこから這い上がってくる様を描く。


 立ち直っては穴に落とし、穴から這い上がっては、また別の大きな穴ぼこを用意し、そこに無慈悲にも突き落とす。


 その落差に読者は参るわけであり、その落差を情緒豊かに書き上げるのが作家の努めかなとも思う。


 たとえば登場人物を悲しませたり泣かせたり、思いっきり怒らせることは、読者に感情の波を味わってもらう意味でも、読者の心に奇想天外な感情を植え付ける意味でも、心を揺さぶる意味でも、とても有効です。そこから心の動線はとても作りやすくなるでしょうし、小説に幅が生まれます。


 注意点としては、作家は常にポーカーフェースでなくてはならないということです。どうだい自分は面白いだろうとか、自分の感情を押しつけたり、面白さの押し売りはしてはいけないというのも重要事項です。


 漫才家が、面白いことを言うのに、自分で笑いながら話をしてはダメなんです。そんなことをすれば、お客は白けてしまうでしょうし、そういう意味で、作家は無表情を貫くというか、作中に顔を出すことなく、描写を丁寧に連ねるにとどめたい。読んだ後の感想、感情移入は、すべて読者の特権として、読者に委ねるべきです。


 本題に戻りますが、読者はある意味、読書をすることにより、作品への感情移入、思考を巡らせることを望んでいる。そして自分が思い描くストーリーをことごとく裏切り、覆すことに心底喜びを感じていたりもするし、ある意味、作家と感情を共有したいとも願っている。

 

 そうよ、そうなのよねえとか、あるあるわかる、私が言いたかったのはまさにそれなのよねとか、作家との情報共有を求め、自分を高見に連れていってもらうことを良しとする。


 感情の波のない作品というものは、どこか退屈しのぎの娯楽を連想させてしまうことが多く、それ以上の期待を呼び込むことはできない。そしてそういう娯楽を対象とする作品には次がない。小説における一番大切な部分、核となる部分、テーマがない。


 マンネリを打破する意味でも、時々、主人公を思いっきり怒らせたり、泣かしたり、感情の波をジェットコースターの如く上下動させるべきだ。


 読者は退屈な作品を望まない。

 今まで過去に味わったマンネリな作品は、もはや二番煎じで読み飽きていて、一杯のコーラより価値がないことに気付いている。


 できればドラマチックなエキセントリックな作品を好むのは人間の性ですし、描写が丁寧な作風に惹かれるのも、当然な成り行きなような気がします。


 登場人物を思いっきり奈落の底に突き落とす。

 それも1度ではなく、2度、3度。

 果てしなく打ちひしがれるほど。


 ぜひ実践してみてください。

 小説の幅が広がると思います。

 

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