聖女(クズ)と勇者(のうきん)と王様(さぎし)と私
lager
prologue
1
聖歴132年、鳥の月。
この日、帝国スリザールの都は、絢爛な宴の中にあった。
何処までも抜けていくような晴天には花吹雪が乱れ舞い、国中の人間が都に溢れ返り、狂乱し、笑って、啼いた。
戦勝の宴だ。
隣国グリフィンドルより仕掛けられた侵略戦争は当初劣勢の色が濃く、最初の大規模な会戦にて大敗を喫してからは、いよいよ国土に悲嘆と絶望の暗雲が立ち込めていた。
都の商人や国を支える貴族までもが他国へ亡命し、この世界から国が一つ減るのも最早時間の問題と思われた。
それでも、我が国は勝った。
劣勢を覆し、最後の会戦にて敵将を悉く打ち破り、捕虜とし、グリフィンドルに莫大な賠償を負わせてみせた。
その奇蹟の立役者となったのが、この宴の主役でもある、三人の英雄である。
都の目抜き通りを凱旋する御輿。何頭もの馬に曳かせるそれの上で人々の歓声を一手に引き受ける、三人の男女。
その中でも最も目を引くのは、先頭に立つ筋骨隆々の黒髪の偉丈夫である。
神より賜った聖なる力を宿したその肉体は剣、槍、鉾、弓、あらゆる武器を使いこなし、戦場においては常勝無敗。百騎を下し、凶悪な魔獣をも単身で退けるその姿は、正に伝説の勇者。
ついた
そして、彼の後ろに隠れるように佇む小柄な女性。勇者と同じく漆黒の黒髪を長く伸ばし、全身を清らかなローブに包んだ彼女は、聖王教会に認められた修道士にして、いくつもの戦に勝利を齎した影の功労者である。
その能力は、『千里眼』。
未来を予知し、敵勢の動きを逐一見極め自軍の采配を振るう、戦場の聖女。
『
最後に、二人の後ろの一段高い場所に腰かけ、優雅に手を振る眩い金髪の男。
この戦争が始まる前、彼は稀代の大うつけとして、国内外の蔑視と嘲笑を一手に引き受ける存在だった。宮にあっては放蕩の限りを尽くし、政を為すに奸佞の臣を重用し、民を顧みず、色に狂った稀代の愚王。
彼は、ある時を境に変貌した。
国庫を解放し、私財を擲ち、民の命を守ることに心血を注ぎ、朝を整え、軍を律した。
彼は言う。
「天啓を得た」、と。
勇者と聖女を徴し、此度の戦を勝利へと導いたこの男を、愚王と呼ぶものはもういなかった。
彼こそは『英雄王』――ユースタス・サラザ・スリザール。
三人を乗せた御輿は、国中の人々の歓喜と熱狂に浮かされるように、ゆっくりと都を南下して行った。
いつ止むともしれない言祝ぎの洪水に押し流されながら、その姿が徐々に小さくなっていく。
それでもあと一刻半もすれば、
私はその後に待っている仕事を想い、いくらか暗くなる気持ちを押し殺し、それまで外の様子を覗き込んでいた窓から、静かに離れた。
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