兄と双子後編
あの後気まずい感じで朝食を4人で食べた。
拓真と恋は感情もなく目玉焼きを食べ、双子の妹の愛はふくれっ面をして不機嫌そうに、麗子は笑顔でそれぞれ違った感情を持っていた。
「たっくんそういえば今日は2人とどこ行くのだったけ?」
麗子が口を開いた。
「あ、えっとメガモールだよ。こいつら買い物行きたいって言ってたから」
メガモールとは市内にある大型商業施設のことである。かなりの規模をほこりだいたいなんでも揃う。ブランドもかなりの数があったりしている。
「兄ちゃんが何でも買ってくれるって言っててたもん。ね?愛ちゃん」
「うん。とりあえず兄さんは私に高級コスメと服ね」
「いや、なんでだよ」
ふくれっ面な愛は目玉焼きの白身を食べながら言った。機嫌はやはりさっきの一件から良くは無い。あんまり怒るようなタイプでないだけに、拓真は少し居心地悪そうにしていた。
「だって兄さん。実の妹の裸見たよね?」
「それは…ごめん。そうだけど…でも愛の裸ではないよな?」
「恋ちゃんと私は一心同体。つまり恋ちゃんの裸イコール私の裸を見たと同じだよ?」
なんというとんでも理論だろうか。確かに顔もそっくりで体型もまぁほぼ同じだが、でも兄である拓真から見れば2人は別人である。
それとも双子のふたりにしか分からない何かがあるのだろうか。
「そうね。私と愛ちゃんは2人で1人みたいなものだし。私の裸を見たということは愛ちゃんの裸見たと同じだからね、兄ちゃん?」
そんなこと言われてもという感じである。というかそれを掘り返して欲しくはなかった。その会話を隣で聞いている麗子の顔を拓真は見ることが出来なかったのだ。
「あーも、わかった、わかった。お詫びで買うからこの話はやめよう」
「やったね!なんだかんだ私たちに甘いもんね、兄ちゃんは!」
「ふふ、本当に仲のいい兄妹ねぇ、たっくん?」
麗子の言葉にドキッとした。別になんということも言葉であるが、何か重みのようなものを感じてしまう。ただの気のせいであろうが、あまり麗子の顔を見ることは出来なかった。
さすがに義理の妹たちには嫉妬などをしたりしないとは思いたい。
「お義姉ちゃんのところ兄弟とか仲良いの?」
「私のところ?そうね。3人程ではないと思うけど仲はいい方よ?うちは5人きょうだいだけど…」
麗子のきょうだいは拓真も会ったことある。みんないい人たちだが、一癖も二癖もある人たちである。絡むとものすごく疲れるというのが拓真から見た印象である。
「そうなんだ…。2人の結婚式のとき見たけど、イケメンと美人しかいなかったような気がするなぁ…」
「そうかしら?私はたっくんがこの世で最もかっこいいと思うけど?」
麗子の唐突な褒めに拓真は少し照れくさくなった。妹たちの前で言われると余計に恥ずかしくなってしまう。
「まぁ…確かにクラスの男子とか見てると、兄ちゃんの方が顔はいいかなとは思うけど…でも兄ちゃんなんだよな〜結局」
「同じ血だからね。兄さんと私たち…」
行き着くところはそこである。顔がいいだろうがなんだろうと家族という時点で対象からは外れていく。拓真からしてみても妹たちは可愛い方だと思うが、所詮は妹という認識に落ち着く。
「どうしてだろう…」
愛は何かボソッと呟いていたが。他の3人は特に聞き取ることは出来なかった。愛の顔はどこか切なげ感じをしていた。
「ニャァ〜」
そんな会話をしている中で我が家の飼い猫のタマはベランダ近くの光のあたるところで呑気に欠伸をしていた。
◇◇◇◇◇◇
「兄ちゃん早く!!遅いよー!!」
「そんなに急いだってしょうがないだろ?」
電車で2駅程でメガモールについた。今日は麗子は別の予定があるということで、久しぶりに兄と妹たちだけでの行動になった。
小さな子供のようにはしゃいで先走っている恋とは対照的に愛は拓真の腕に身体を寄せて歩いていた。
「兄さん」
「何?」
腕に引っ付いている愛が上目遣いで言ってきた
「私まだ怒ってるからね」
「え…なんで?」
「恋ちゃんの裸を見たこと」
先程の朝の一件のことを何故か本人ではなく愛が怒っていた。普段はあまり表情にでないタイプの愛であるが、今日は少し不機嫌であることが兄である拓真には見てわかった。
「いや、あれはでも不可抗力だし…。それに愛の裸は見てないよね?」
「私と愛ちゃんは双子。つまり一心同体。ということは?」
朝に言ってた、とんでも理論。ここでも言ってくるとは。
「ということはって…。恋=愛?」
「そう。恋ちゃんの裸を見たってことは私の裸を見たっていうこと。責任とってもらうからね」
絡めていた腕をぎゅっと力を入れてふくれっ面をしていた愛。怒っているとはいえ兄の拓真からしてみれば可愛らしくも感じた。
「えぇ…。あぁ、わかったわかった」
まぁ今日はせっかくの兄妹水入らずであるから、たまには妹たちを可愛がるか。そう考えた拓真であった。
メガモールについたあとは2人の妹に色んな所に連れ回された。服をみたり雑貨をみたり、化粧品を見たり。麗子と休日に買い物に行く時のようなどこか既視感を感じていた。
「ほら兄ちゃん!次々!」
「兄さん遅いよ」
「はいはい…」
楽しそうな2人を見ていると昔を思い出していた。遊びに行く時、よく拓真を引っ張って突き進んでいく双子たち。斎賀家には父親がいないこともあり、甘える男家族は拓真だけである。
2人にとっては拓真父親代わりでもあるのだ。
両腕ををそれぞれが占領しており、傍から見れば両手に花という状態の拓真であった。店を見つつ歩いていく。
しかし、2人はもう高校生である。時は早い。
感慨深さを感じると共にふとあることを思った。
「そういえば、恋と愛は好きな人とかっているのか?」
右腕と左腕それぞにいる妹たちに問いかける。
「いや、また唐突な質問だね…。まぁ…今はいないかな…」
「私もいないよ」
2人とも同じような応えが返ってきた。
「え?お前ら花のJKだろ?思春期だろ?恋バナ的なのないの?」
2人の言葉に驚きを隠せない。高校生は特に恋愛とかは好きなんじゃないかと考える拓真。
身内贔屓という訳では無いものの、拓真から見れば双子の妹たちはどちらも美人という分類ではないが可愛い容姿をしていると思っている。
「あのね?JK誰しも恋愛する訳じゃないから」
「兄さんはエッチなんだから」
「誰がエッチだ」
2人はジト目で拓真の方を見ていた。
今どきの女子高生は恋愛だけが全てでないのか。とはいえ、2人の容姿はいいほうであると思っている拓真は気になることがもうひとつあった。
「僕から見ても2人は可愛いと思うけど…告白とかされたことないのか?」
「それは…あるけど」
「ないと言ったら嘘になるね」
それはあるんだ。
「でもね!聞いてよ兄ちゃん!!うちの高校男子さ、私と愛ちゃん間違えて告白したりするんだよ!!?」
「確かに…この前も恋ちゃんと間違えられた」
双子であることもあり、ほんとにそっくりである。3人の母親もたまに間違える。親なのに。
ただ拓真だけは2人を見分けることができている。よくお世話をしていた証なのかもしれない。
「まぁ…確かに2人とも本当にそっくりだからな…」
「でも喋り方も性格も違うよ!?」
「いやそうだけど…」
2人とも気にしている感じはあった。しかし拓真には双子の兄弟とかがいる訳では無いのでこのふたりが抱える悩みというものをわかってやることはできない。
「それにさ私たちの名前の恋と愛ってくっつけたら恋愛だよ?安直すぎない?」
ちなみにこの双子たちの名付け親は父親である。ふたりとは違って父親のことを知っている拓真は「そうだよな」と心の中で思っていた。
実際父親はろくでなしであったが、ただふたりが生まれた時はとても嬉しそうにしていた。
多分名前の意味もちゃんとあるはずである。
「学校で私たちのこと恋愛姉妹ってみんな言ってるからね?なんかやらしくない?」
「やらしいかはともかく、憶えて貰いやすくていいじゃん」
「兄ちゃんはなんもわかってないなー。
あ、ちょっとお手洗いいってきてもいい?」
「私も行ってくる」
そういうと恋は手を離してトイレの方へ行った。1人になった拓真はベンチに座って待つことにした。
「あの…拓真さん?」
「ん?あれ?彩奈ちゃん?」
誰に声をかけられたかと思いきや隣部屋の
女子大学生でたまにマンションですれ違うこともある。顔の整った美人な娘であった。
「こんにちは…。今日は…麗子さんは?」
「あぁ…妻なら今日はいないよ?」
少しオドオドした感じでそう聞いてきた。
「そ、そうなんですね…。よかった…」
どこかほっとしたのか溜息のようなものが出ていた。
「彩奈ちゃんは1人?」
「はい。ちょっと買い物に…」
「なんか大学生みたいで綺麗だね」
「えっ?ああ、あのありがとうございます…」
普段会う時はおそらく大学用の格好であるからか、ロングスカート編み込みのブーツそしてニットという格好で落ち着いた雰囲気を持ちつつもどこか色気もある感じであった。
普段はたまに出勤や帰宅の時に鉢合わせするくらいであり今日のようなことは滅多になかった。
「こんな感じで話すのは初めてだね」
「そうですね。いつもは…麗子さんが…」
「ん?麗子がどうしたの?」
「いえ、なんでもないです……
拓真さんはおひとりでいらしてるんですか?」
ちょっと苦笑いをして彩奈は答えた。
「今日?実は妹たちが…」
「兄さん?」
彩奈と向かい合って話しているところにお手洗いから帰ってきた愛が横から現れた。
「あぁ、帰ってきたか」
「ええっと、拓真さんの妹さんですか?」
「誰この人?」
愛はどことなく不機嫌な顔をして彩奈の方を見ていた。彩奈はと言うとどこか気まずそうにして目を合わせようとはせずに拓真の方を見ていた。
「この人はうちのご近所さんさんの源次彩奈さん。大学生だよ」
「ふーん…。はじめまして…妹の斎賀愛です…」
「ど、どうも…」
どことなくぎこちなさがある挨拶の仕方をしていた。愛はと言うと睨むかのようにして彩奈の方を見ている。
「兄さんは源次さんと何してたの?」
「たまたま会ったからちょっと話をしてたんだ」
声音が怒っている時に愛と同じであった。表情もあまり楽しそうなものとは言えない。
普段そんなに表情を出さないタイプの愛であるが、今回ははっきりとわかるくらい不機嫌だった。
「そう…。浮気でもしてるんだと思った…」
「なわけないだろ?彩奈ちゃんに失礼だろ?」
「彩奈ちゃん?兄さんその人のことを下の名前で呼んでるの?そんなに親しいの?」
かなり攻めてくる。どうも様子がおかしい。いつもの愛はこんなに突っかかってくることはない。何か余程嫌なことがあるのだろうか。
「だから…ご近所だっていってるだろ?それに歳下の娘だから別にいいだろ?」
「あ、あの…うちには母や妹もいるので区別するのに下で呼んでるのだと思います…」
申し訳なさそうに彩奈は横から答えた。
「兄さんは節操がないんですよ。誰彼構わずにそんなふうに接して…だから勘違いされるのよ」
愛は続けざまに言ってくる。
「だいたいただの隣人のそれも女子大生とそんなに仲良く会話するの?おかしいよね?
この人勘違いしちゃうよ?」
「いい加減にしろ愛!!!ほんとに怒るぞ!!彩奈ちゃん妹がごめん…」
兄妹のよく分からない揉め事に巻き込まれている彩奈に拓真は謝った。彩奈の方は全然そんなことはないと手を振って答えたが、愛の方は納得いっていない表情だった。
「兄さんのそういうところ嫌い…。だって私は兄さんの…」
兄に怒鳴られたことにショックだったのか涙目になり何かを言おうとしたところで片割れがやってきた。
「はふぅ…。ごめんね!遅くなっちゃって…
え?どしたの?」
事情を知らない恋は兄と双子の妹の喧嘩に横に知らない女の人が挙動不審でいる状態に理解が出来ずにいた。
結局その後彩奈は2人に謝りその場を去っていったものの、空気は最悪だった。
恋がなんとか空気を取り持とうとしてくれてはいたが愛はずっと泣いて不貞腐れおり、拓真はどうしたらいいか分からず気まずそうにし何も言葉を発さなかった。
「もう2人ともいい加減にしなよ!兄妹で喧嘩したなら仲直りしなさいてママがいつも言ってるでしょ?」
「やだ…」
「これでどうやって仲直りすればいいんだよ…」
喧嘩が泥沼化していき収集がつかない。恋は頭を抱えるばかりであった。
結局、買い物の結末はなんとも後味の悪く虚しいものになってしまったのだった。
僕の背後に包丁を構える妻がいる 石田未来 @IshidaMirai
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