第14話◇女ってこわいねー

 翌日、朝、学校の教室で一晩明かすとは。学生時代にもしたことはねーな。水が出ないので顔も洗えず、少し腹も減った。

 昨日は夕方にチョコレートクッキー2枚だったからなー。朝昼しっかり食えたから、まだまだ元気だが。

 上からおっさんが下りて来たので、俺らが今から水と食料探して来る、と言っておく。おっさんは驚いて、止めておけと言ってくれるが、


「昨日、この学校に俺らがどうやって来たか見てたろ。ゾンビの対処なら少しは、わかってきた」


 だから音楽プレーヤーだけ用意して欲しい、上で誰か持ってたら貸してくれ。あと使えそうなもの探すから二階をうろつく許可をくれ、三階には昇らないから。

 おっさんは悩んでいたけど、わかったと返事して三階に。さて、バットもバールも吉野君ち、いや高木さんちか? に置いてきたから、なにか代わりのもの。掃除用具入れからモップを取り出す。


「小山さん、これ、振り回したらすぐに折れそうですね」

「だなー、だから殴り用に使うんじゃなくて、胸か腹を押して近づけないようにするか、足を引っ掛けてこかしたりとか」


 モップの毛を外して吉野君に1本、俺に1本。とか、やってたら今度は保健の先生が来た。外に行くと聞いて、ではこれを、とお茶のペットボトル500mlを持ってきてくれた。おいおい、俺らのことはいいからそれはあんたが持っとけよ、と突っ返す。俺らは外に出れば取り放題なんだから。


「上の人達は、どうなんですか? 体調とか精神的なこととか」


 吉野君が聞くと、美人の保健の先生は悲しそうに、


「みんなよく我慢してると思いますよ。でも、昨日みんなでお二人の荷物を奪ってしまって、盗んだものを食べて飲んだ後から冷静になって、罪悪感を感じてる人と、それをごまかしたいのか、『あの二人はゾンビに噛まれているに違いない、今まで外にいて無事でいられる訳が無い』と言い出す人がいたり、『あの二人はまだなにか食べ物をどこか安全なところに隠しているんじゃないか』なんてことを言い出す人もいて。やっぱり弱ってますね。体調もだけど気持ちが。なので昨晩は、私達交代で二階と三階の階段を、誰も下に降りないように見張ってました」


 あらま、知らない間に守ってもらっていたらしい。ちなみ二階と三階につながる階段は二つあるが、片方はバリケードで封鎖、もう片方もなにかあったらすぐ閉じられるように、幅を人一人が通れるように残して机を積み上げてある。これなら崩せばすぐに通行不能だろう、と。


「あなた方にお礼を伝えたいという人もいます。連れてきましょうか?」


 それは、お断りで。相手しても時間の無駄だし。それであの金髪の女の子が来たら、俺がうがーとなってしまう。なんとか誤魔化してんだからそれは無しにして。


 校舎二階のはしっこでハシゴの用意。おっさんとヤクザがどちらかがついていくと提案、しつこく言ってきたもののそれはお断りで。俺と吉野君が無敵モードしてんのバレちまう。

 なので、上手くいけば戻ってくるけど、戻って来なかったら、死んだものとして諦めてくれ、と言っておく。


(小山さん、自分ら何かゾンビゲームの主人公みたいですね)

(俺らだけチートな勇者みてーになってる? ただのゾンビのなりそこないだとバレたらリンチされそうだけど)


 吉野君とこそこそ話してると、ハゲおっさんもヤクザも俺ら見てなんかうるうるしてる。どうも、身を捨ててみんなの為に水と食料持ってくることに挑戦しようとしてると思われてる。変な期待をしないでくれ。

 んで、二人には校舎反対がわのはしっこで、スマホで音楽を鳴らしてもらうことに。ネットにはつながらないが音楽は再生できると。音量に不安はあるが、さてどうなるか。窓から顔を出して手を振って合図、反対がわのはしっこから音楽が聴こえてくる。よく知らない女性複数人のポップスが流れてくる。


 ゾンビ共は、と。ゆっくりと移動を開始、順調、順調。音に向かってフラフラと。ある程度いなくなったところで、そーっとハシゴを下ろす。ハシゴまわり確認して、音を立てないようにハシゴを降りる。

 ほい、ひさしぶりの地上。左右見渡して、うん、こっちに来るゾンビなし。上に合図して吉野君が降りてくる。吉野君がハシゴの途中で上からモップを受け取り、俺にパス、を2本分。吉野君が地上に到着、モップを渡して移動を開始、抜き足差し足で校門まで。

 ゾンビはスマホから流れてくる音楽に夢中のようで、さして問題も無く校門まで。流れていた音楽はライブの録音ものだったようで、俺たちが校門を通る際に1曲終わり、『みんなー!ありがとー!』と可愛らしい声が大きく聞こえた。


「さて、ここまで来たら、学校からは見えないかな?」

「やっと落ち着いていろいろ話せますね。で、デパートに向かいます?」

「先に昨日のマンションに行かない? バットとバールをとりに行きたい」

「じゃ、そういうことで。道々、鍵のかけたままのトラックかワゴンを探しながらでいきましょうか」

「で、昨日のことなんだがー」

「はい、確認なんですが、小山さんが襲おうとしたのは、あの金髪の女の子ですよね?」

「そうだねー、で、吉野君が食べた高木さんのお嬢さんって何歳くらい?」

「歳ですか? えーと小学校低学年くらいじゃないかと」

「金髪の子は中学生ぐらいだよなー、俺が反応したけど、吉野君はなんともなかった?」

「自分は、特に何も。ハシゴを昇ったときあの教室にいた人はひととおり視界に入りましたが、誰にもうがーとはなりませんね」

「高木さんのお嬢さんは、日本人? 金髪だったりした?」

「髪も目も黒かったんで日本人かと」

「どういうことなんだろうな? これは、俺らは二人とも、男は襲わないってことでいいのかな?」

「わかりませんねー、ただ、共通してるのは年下の女の子、ですね。保健の先生は大丈夫」

「綺麗なお姉さんは範疇外? あの教室には、金髪の女の子より年下の子供はいなかったよな?」

「そうですねー、十代かなってのがあの子一人でしたね、……もし、子供がいたら? どうなってましたかね?」

「わかんねー、その辺りは実際に見て試さないと解らんね」


 試してないのは、年下の男の子、あとは老人の男女。お年寄りはあの学校まで辿り着けなかったんかな?


「自分と小山さんでは、食欲を感じる対象年齢が違うんですかね?」

「それもわからんね。あの場にいた外人が一人だけだったから、もしかしたら金髪白人女なら年齢問わずうがーかもしれんし」


 吉野君は頭を掻いている。


「うーん、これは次のヒント待ちというとこですね。今のところは、女には気を付けろ、ということですね」


 意味は通じてるのに、言葉が間違っているような気がする。女って怖いなー。新しい意味で。

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