第10話◇人助けなんて柄じゃねーんだけど
やることも決まったことで具体的にどうするかをあーだこーだと話し合い、外のゾンビ相手にひとつ実験してみて、よしこれでいくかと準備をする。
必要なものを取ってきて荷物まとめて、なんだかんだと結構時間がかかってしまった。
軽く腹ごしらえをするかとキッチンを見れば、吉野君がチャーハンを作ってくれた。お料理のできる吉野君はきっといいお婿さんになれる。朝食を作ったときに米を炊いておいたのだと。吉野君スゲーな。
「電気が使えるうちにお米を炊いて、おにぎりでも作っておこかうかと」
吉野君家事レベル高いねー。
「母が仕事で外に出て、自分がウチの中のことやってたもんで、掃除に洗濯、炊事が仕事の引きこもりです」
それは引きこもりでは無くて家事手伝いというのでは? ま、家事手伝いと誤魔化しているのを引きこもりにちゃんとカウントすると、日本の引きこもりは500万人とかいう話をどっかで聞いたけど。
ん? ゾンビパニックが起きると生き残りやすいのは引きこもりなんじゃないか? もしかして? おー、これが絶滅を回避するっていう生物多様性の冗長系とやら? 引きこもりとは人類が絶滅しないための、生存戦略であったのだ、なんてな。
いつのまにか力仕事は俺で、そのサポートが吉野君というコンビになってた。あと一人、グラマーな美人が『やっておしまい!』と言ってくれたら三悪人になれそうだ。わっはっはーのは。
ちと遅くなったが日のあるウチにやることやってしまうか。さて、行きますかね。
「小山さん、上手くいきますかね?」
「わかんないねー」
「上手くいくといいですねー」
「そうだねー」
リュックを背負い、バッグを二つ両肩にたすき掛けにして肩にハシゴをかけて準備完了。荷物がいっぱいだ。
「よくそれで動けますねー。あの学校まで距離ありますよ?」
「このぐらいなら、なんとかなるけど。途中に休憩挟みながらということで」
なんの問題も無く学校に到着、俺らぜんぜんゾンビに相手にされないんだからそりゃ楽勝だわな。
学校の校門が見える交差点の角に荷物を下ろす。ここなら学校の中から俺らは見えないだろう。校門があって校庭があってその向こうに校舎。校庭と一階はゾンビがうろうろ、かなりの数がいる。うーあーよたよた、ただ歩き回ってるだけなんだが、どいつもこいつも上を見上げている。三階に人がいるのが解ってんのかねこいつら。
「走らないゾンビだから相手にするのは楽ですよね」
「走るゾンビとか爆発するゾンビとか出てきたらやだなー」
「割れた頭から触手をビュルビュル伸ばすゾンビというのも、ゲームにはいましたね」
「続編作る為にバリエーション増えたんだろうけど、こっちはハンドガンも手に入らない日本なんだから手加減して欲しいとこだ」
さーて、ここから確認作業そのいち。
双眼鏡で中の人間の様子を観察。窓の外、地上のゾンビを虚ろな目で見ているおじさんがいる。疲れてんなー。人生の悲哀を背にしょって、その重みで背中が丸くなってんぞ。
双眼鏡を吉野君に渡して見てもらう。どうよ?
「この距離でみても、まだうがーとはなりませんね」
俺もそう。視界は赤くならないし、双眼鏡越しに見たおじさんを食べたくはならない。吉野君の作ってくれたおにぎりの方が旨そうだ。
「で、吉野君、なんでここでお弁当タイム?」
「お腹がいっぱいなら食欲って抑えられるんじゃないかと。食欲の種類が違うようなら、ダメもとですけど」
吉野君、あんた賢い。塩の聞いた三角おにぎりをパクパクと。食うだけ食って突入準備だ。
俺らが襲ってはダメだろうってことで。なのでどちらか片方がうがーとなったら無事なほうが押さえる予定で。
「二人揃ってうがーとなったら?」
「知らん。そのときは成り行きまかせで」
「アバウトですねー」
「ま、そうならないように俺が先に行く」
確認作業そのに。これから校舎の中に乗り込むんだが、ゾンビをどうするか。
俺らはゾンビに襲われないけど、校舎の中の人達がゾンビに襲われない俺達を見てどう思うか。答え、ゾンビの仲間。としか見えないだろよ。なのでゾンビを回避して逃げて来たふうを装うことで、普通人のふりをすることに決定。
これをどう演出するか、という問題は忍者暗殺ゲームと工作員潜入ゲームをやり込んだ吉野君のアイデアで。実験も成功してたし。吉野君がノートパソコンをバッグから出して起動、バッテリーは充分、ではミッションスタート。
なるべく音を出さないようにそろそろゆっくり歩く。ハシゴをぶつけないように気をつけて。俺は吉野君の持ってた荷物も抱えて、校門の方に、吉野君は必要な道具だけ持って身軽にしといて、学校を囲う塀の角に向かって。
塀のお陰で校門までは見つからずに無事到着。音を立てないように静かにハシゴを下ろす。校門から覗くとゾンビはまだこちらに気付いてない。よしよし。吉野君はしゃがみこんで準備中。
ノートパソコンにスピーカーを繋いでセット完了。その場にノートパソコンを置いて、そろそろとこちらに歩いてくる。そしてスピーカーからはかなりの音量で音楽が流れだす。
♪めん!おぶ!みりおんだらまうす!
ゾンビが一斉に歌が聞こえる方を向く。そのまま歩きだす、よーしよし。実験したときもゾンビは音のする方に移動した。人の声が入った歌の方が、歌無しの音楽よりも反応がよかった。校舎の方も音楽に気がついたようで窓に近づく人が増えた。ギャラリー増える増える。
♪どんえにげにさゆらん! あらーみんぐ!ちゃーみんぐ! ほわいろでぃかどがーりっく!
ゾンビは校庭の一角へと集まり始めた。ファンの集う野外コンサート、どうやらゾンビ共音楽に飢えてたらしい。両手を上げてうぉーうぉー、あの歌の良さが解るとはなかなかセンスがよろしい。コンサートのわりには、誰もサイリウムもタオルも手に持ってないんだが。
吉野君と二人でハシゴを挟んで持ち上げて、
「んじゃ行くか」
「行きますか」
ゾンビがいなくなった校庭を走る。二階の窓の開いてるところはと、あれか。校舎に到着、ハシゴを窓にかけて吉野君におさえてもらって俺が先に登る。
ここにいるのは人間、うがーとなりそうになったらハシゴから飛び下りて引き返す予定。正直、ゾンビに相対するよりよっぽど不安で緊張する。
中の人が怯えてこのままハシゴを外に倒す心配もある。最初に顔を見せたヤツの反応によっては、バッグだけ投げ込んで帰ればいいか? 中の奴等が追い込まれたストレスで頭おかしくなってなければ、少しは話し合いができるかも? カンカンとハシゴを登っていく。
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