第7話◇で? 吉野君、何があった?

 

 カップラーメン食べながら、以下、吉野君の話。


◇◇◇


 えーと、どこから話をすればいいですかね?

 ゾンビが来たとき、ですか? このマンションにいました。ここじゃ無くて隣の自分家のとこです。と、いうか1年前にこのマンションに母と引っ越して来てから1度も外に出たことがないので。


 その日は午後2時くらいから外が騒がしくなりましたねー。パトカーとか消防車のサイレンがうるさかったです。窓から見たら、二ヶ所煙の立ってるとこがあったんで火事だと思ってたんですけどね。

 テレビで火事のニュースがあるかな、とテレビをつけてみたんですけど、そのときは特に緊急ニュースとかは無かったですね。でも外からはキャーとか悲鳴みたいなものが聞こえてくる。そのうちテレビがなにも放送しなくなりました。チャンネルを替えてもなにも映らない。パソコンもネットに繋がらなくなりました。

 これはなにかあったなーと慌てて母に電話したんですが、『只今、回線が込み合っています』とアナウンスが流れるばかりで繋がらない。母の職場に電話しても同じでしたねー。


 何か起きてる、ということは分かるんですがそのときは情報が無くて全然わかりませんでした。

 なんで避難しなかったのか? それは地理が解らないからですよ。マンションから出たこと無いから街の地理がわかんないし、緊急避難場所がどこかも知らないし。

 日も暮れたから、なにか行動するのも明日明るくなってからにしようと。ほら、パニック映画とかでも状況わからずに感情的に行動する人から死んだりするじゃないですか。翌日のために靴、服、用意して防災袋の中身を確認してました。ただ、そのときはまだ深刻には考えてませんでしたね。なにか災害が起きてても、地震みたいに揺れを感じたりとか、実感が無いから。


 母と連絡とれないのが心配だったけど。その日は夜中、外がうるさかったですね。このとき慌てて外に出てたら、自分もゾンビの餌食になってたかもしれませんねー。だんだん恐くなってきて、一晩眠れませんでした。もしかしたら、電気を消して暗くして部屋にこもってたから助かったのかも。


 翌朝、窓から見た外は少し静かになってたんで、覚悟を決めて玄関の扉を開けて外に出ました。一年ぶりに外に出ましたねー。でも、扉の外に母が立ってたんですよ。あ、おかえりなさいって。そしたらその母が、うあー、とか言いながら自分にのしかかって来て、押したおされて、肩を噛まれたんですよ。

 ほら、テレビゲームで、ゾンビになっても生前の記憶が残ってて、生活習慣でよく行くショッピングモールにゾンビが集まってくるっていう設定のがあって、母もそんな感じでゾンビになっても家に帰ってきたのかも知れないですね。そのときは母を蹴り飛ばしてマンションの中に逃げました、けど母も部屋の中に入って来てたので、そのままドタバタ逃げてて、本棚を倒したら母がその下敷きになって動けなくなって助かりました。


 まぁ、そのまま母に食べられて死んでもよかったんですけど、そのときは肩の痛さと恐いのと死にたくないで頭がいっぱいで他のことは考えられませんでしたねー。

 本棚の下敷きになった母に話かけても、うあー、としか返事はないし、動かせる右手だけで僕の足首掴もうとするし、母に噛まれた肩は痛むし、外から帰ってきた母がそんなんだから外に出るのも嫌気がさして。外に行くのやめて自分の部屋に戻りました。


 そのうちだんだんと目眩がしてきて、肩の痛みも薄れて、頭がぼーっとして寝てしまいました。

 起きたら髪の毛が白髪増えて、こんなんなってました。肩のキズも治ってたし。


 お腹がすいたので外に出て食べ物探しました。このときゾンビに会っても襲われなかったんで、やっぱりゾンビに噛まれたらゾンビになるのかーと。諦めてましたね。

 コンビニを発見して、中で食べ物をいただきました。そのコンビニは自動車が一台突っ込んでたけど、人もゾンビもいませんでしたね。避難しようかとも考えたけど、自分ゾンビに噛まれたから人のいるところに行くのは気がひけて、でも母のいるところに帰る気もしなくて。


 マンションの隣の家が自分の親戚で、ここのオーナーなんですよ。え? いや、まー実家が金持ちなのは、そうなんですけどね。なんで舌打ちするんですか? 金持ちがムカツク? そんなこと言われても、えーと、続けますよ?

 で、マンションオーナーの家に入ってここのマスターキーをもらって来ました。その家には誰もいませんでしたねー。

 母のいるところじゃない別の部屋をとりあえずの住み処にしようかと。そのためにもらってきたマスターキーで自分家の隣、つまりここ、高木さんちの玄関のカギを開けたんですよ。そしたら女の子がいて、あ、女の子がいるーまだゾンビになってないみたい、と、意識があるのはそこまでで、気がついたときにはもう女の子は死んでて、自分はその女の子を食べてました。


 ……あの、睨まないでくださいよ、恐いじゃないですか。

 なんで襲った? それは、自分が知りたいですよ。女の子を見た直後には、視界がうっすらと赤色になって、意識がなにかに飲まれるみたいに無くなってしまって。意識が戻ったら、女の子は血まみれで死んでるし、自分は口から胸まで血がべったりだし。でも口の中のお肉は美味しいし。

 小山さんだって、その髪の毛、自分と同じですよね? 小山さんだって生きてる人間みたら自分と同じように襲うかも知れないじゃないですか? 冷蔵庫の中を見たときの反応で確信しましたよ。自分だってそのときは混乱したし、罪悪感で胸いっぱいでしたよ。だからそんな目で見ないでくださいよ。


 別に謝らなくてもいいですけどね。女の子襲って食べてしまったのは事実だし。自分もちょっと頭に血が登ってしまいました。なんでシチューかって? 古くなったお肉は火を通さないと危ないかな、と。解体とか血抜きってやり方よく解らないから保存もちゃんとできてないだろうし。なにより殺してしまった以上は、粗末にしないでちゃんと食べたほうが供養になるかなーと。




 以上、飯食いながら吉野君から聞いた話。吉野君の食べてるシチューがすげー旨そうに見えるから、困ったもんだ。

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