喰らい死す!クライシス!

八重垣ケイシ

第1話◇予告ホームラン、と


「おぅらあああっ!!」


 金属バットフルスイング。手応えばっちり。目の前のサラリーマン風スーツネクタイの痩せ男は、首を90度、いやもうちょい行ったか? 120度くらい横に倒してから、そのままぶっ倒れた。倒れても手足がびっくんびっくん動いてるから、一歩離れる。リーマンゾンビいっちょあがりー。金属バットすげー、金属バットやべー。こんな殺傷兵器がスポーツ用品てことで、未成年にも買えるって、ほんと日本て危ねぇ国だよ。


 叔父さんが息子がチンピラになったからって、夜中に叩き殺したのも金属バットだったんだよなぁ。叔父さんもマジメ過ぎんだろ。大麻育てて売っても、見つからずに金が稼げりゃいいだろに。

 街にゾンビが溢れても、スポーツショップで頂いた金属バットでどうにかなってんのは、野球がメジャーなスポーツなおかげさまです。で、なんでゾンビが都内に溢れてんだ? 知るか。

 向こうから、まだ二人来る。いや、二体か? 服が破れて片乳ほっぽり出したおねーちゃんのポロリゾンビとお腹でっぷりのおっさんメタボゾンビが、うあー、とか言いながらヨタヨタ近づいてくる。楽しいのか苦しいのか知らんがうあー、うあー、うるせえ。


「ホームランッ!」


 気合い一発、手近なメタボゾンビに降り下ろす。ガツンといい手応え、メタボゾンビの頭が前にだらんと倒れて、ホームランてあれだろ? 漢字で書いたら『葬らん』だろ? 

 つまり予告ホームランてのは『我、汝を葬らん』て意味だろ? 野球怖ぇー、野球すげー。未成年に野球は教育上良くない。野球は二十歳になってから。子供がマネしちゃいけません。ポロリゾンビも足を払って、バタンとうつ伏せに倒れたところで後頭部をガッツンガッツン。

 首の骨が折れるか、頭をしこたま殴れば動かなくなるらしい。よーし、だんだん要領が解ってきた。


「きゃああああ! 助けてぇぇえ!」


 道路の先から女の悲鳴。て、馬鹿か?そんな大声出したら、うーわ、向こうから女が走ってくる。後ろにゾンビを四、五体引き連れて。わーめんどくせー。


「ひ?」


 へんな声出して立ち止まる女。まぁ血塗れのベコベコに凹んだバット持った男が目の前にいたらそうなるか?


「足をとめるな!ボケッ!」


 女の背後に迫ってきたゾンビにダッシュ&キック。先頭のゾンビを蹴飛ばしてその後ろのゾンビにぶつけて二体転がす、残りに向かってバットスイング。ガツンとな。


「早く逃げろっ!」


 肩越しに女に叫ぶ。あれ? 俺、カッコ良くね? で、なんで俺はコイツ助けてんのよ? 勢いでやったけど、俺なにやってんの? 残りのゾンビも片付けないと俺が危ない。仕方ねぇ、やるか。

 目の前のゾンビ共に意識を集中、してたら、今度は白いワゴン車が走ってきた。ゾンビを撥ね飛ばしてきたのか、前面が凹んで血がついている。ゾンビをガンガンに轢いて来たんか。て、うおわ、あぶな、俺まで轢く気か? 慌てて避けた俺の前を通り過ぎて、白いワゴン車が女の近くで停まる。後部座席の扉を開けて、男が顔を出して手を出して叫ぶ。


「みっちゃんっ!」

「カズ君っ!」


 逃げてきた女はワゴンの男に駆け寄る。なんだー? 叫んで逃げてたバカ女はヒロインですか。白いワゴン車の王子様は主人公ですか。あーそうですか。盛り上がってんなバカップル他所でやれ。でも、その女の背後からゾンビが迫ってて、このままだと間に合いそうに無い。


「ンのやろっ」


 バットをフェンシングみたいに突きだしてゾンビの側頭部を狙う。こめかみあたりにナイスショットしてふっとばす、ビリヤードっぽいなコレ。間一髪、女を掴もうとしたゾンビの手が空振りしてそのゾンビはぶっ倒れる、が、やべぇ、もう一体いる。

 バット突きで伸ばしきった右手を引き戻す前に、右手の小指側、肘と手首の中間あたり、そこをゾブリと、噛みつかれた。


「っっ痛ってええぇぇぇぇ!!」

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