第4話 サンタはいない

 ぼくはサンタに捕まっていた。

「ほんとにサンタなの?」

 けれどサンタはトナカイのソリなんかに乗っていなくて、四つの車輪がついた四角い車に乗っている。その運転席でブーツまで脱いじゃって、臭い足を絡めてダッシュボードに乗っけていた。

「ああ、そうだよ」

 疑うぼくへ、着ているコートを引っ張ってみせる。

「赤いだろ? で、ここ、白いだろ?」

 でもやっぱり白いおひげはついていなくて、ぼくは隣の席でうつむいた。

「……おじいちゃん、じゃないもん」

 結んだ口で言ってやる。

「それはほっときゃそのうちなるから、心配するな」

 言うサンタはなんだか適当だ。それでも次々に指さして、サンタは最後、ぼくに頭へ乗っけた帽子をぐい、と見せつける。

「けどこの色とコートと、そら、三角帽子は間違いないだろ。これはこの時期にしか着ないし、今夜はお届け物をするって仕事が山ほどある。年末は忙しいんだよ。どうだ。サンタ以外に考えられない取り合わせだろう」

 仕方がないからぼくはサンタへ顔を上げて、嫌々確かめ、また自分の足へ目をやった。

 そんな僕の様子にサンタはなんだか諦めたみたいだ。前へ向き直ると運転席の中へずる、と沈みこんでゆく。三角の帽子を顔の上へ乗せかえてから胸の上で腕を組んだ。

「で、なんで、こんな夜中にボクみたいなちっさな子が外を歩いてんの?」

 ちょっと黙り込んでから、ぼくへ話しかけてくる。ぼくはそんなサンタにもっとずっと、ぎゅっと口を結んで、眉も結び返してやった。

「なんでかな?」

 けれどサンタはしつこくて、今度はぼくが諦める。

「ママが」

「ふん」

「ママが、サンタはいないって言うから」

 ならサンタは少し驚いたみたいだ。顔に乗っけた帽子のすみっこから、びっくりした目でぼくを見る。本物なのにおかしいの。だからぼくはもう一度、サンタに聞いてやることにした。

「ねえ、ほんとにほんとのサンタなの?」

 サンタはすぐに答えてくれず、顔の上から帽子を取る。それからぼくの前で、おひげのない口をムズムズさせた。じれったいのは嫌だから、僕はもう一度、サンタへ向かって言ってやる。

「おひげはないけど赤いコートで三角帽子で、今夜はたくさんのお届け物があるから、本当のサンタなんだよね?」

 嘘だったら、ぼくは絶対、許してやらない。

 するとサンタは目をぐうう、と大きく開いてみせた。じいっと返事を待つぼくに、その目でにいっ、と笑いかけてくる。

 何だかやっぱりサンタっぽくないと思うけど、ぼくは返事がくるまで決めつけたりしないんだ。だからサンタも放り上げていた足を降ろしてブーツを履いた。車輪のついたトナカイから振り落されないよう、体へベルトを巻き付け始める。

「ようしボク、サンタの仕事ぶりを見てみるかっ?」

 本物かどうか知りたかったから、ぼくはすぐにうん、と答えて返していた。ならサンタはぼくにもベルトをしろと言って、トナカイにムチを入れる。入れて前を睨み付けた。

「サンタはな、いつだってみんなが一番、欲しいものを知っている。そしてそいつを見事、届けるからサンタと呼ばれるんだ」

 その通りだ。

「だからボクのママにも今一番、欲しがってるものを届けて、サンタがいるってことを証明してやる。いないとはもう、言わせない」

 と、トナカイのお鼻は光って、目の前がまあるく白く浮き上がった。ぼくはその提案に、わあ、と大きな声を上げて、そんなぼくへ帽子をかぶりなおしたサンタは、またあの笑顔で振り返る。

「そら、ボクの家はどっちだ? 案内しろ。ママはきっと心配してる。家へ大事なボクを届けてやるさ」

 トナカイには荷物を担いで走る昔の人のマークが貼りついていたけれど、揺られてタイヤの音を聞きながら、飛び出してきただけの道を辿って家を目指す。

 メリークリスマス。

 ママに言ってあげるために。

 きっとママだってサンタはいるって、信じてくれる。

 だって、メリークリスマス。

 ぼくは今夜、サンタといる。

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