第89話 全力! 全開!!

《さあ、どうするのだ? 特異点の娘よ!》


 くぅ……このままだと本部は倒壊して、地上に落下しちゃうよ。

 地下に閉じ込められている住民は、みんな押し潰されちゃう。


 そして私の体は、敵に連れ去られようとしている。

 今はなんとか捕まえてるけど、気を抜くと持っていかれちゃうよ。


 本部を支えるか……体を捕まえておくか。

 私に出来ることはどちらかだけ、両方は無理だ……。


「「「ソーラ!!」」」


「チコタンッ、ミィシャンッ、エルリンッ」


「本部はワタクシ達でなんとかしますわ、ソーラは自分の体を取り返して!」


「せっかくここまで来たんだニャ! 絶対に逃しちゃダメだナ!!」


「ソーラは自分の体に集中です、住民は私達で救ってみせます!」


「エルリン……ミィシャン……チコタン……」


 はぁ……呆れる……。

 三人とも迷うことなく、私に私のことを優先させてくれようとした。

 なのに私は……こんなことで迷ってる……。

 ホント、自分に呆れちゃう……。


「バカ……」


 命よりも大切なものはないって、分かってたはずなのに……!


「私のバカァーッ!!」


「「「ソーラ!?」」」


 考えるまでもない、やるべきことは一つだけ!


「本部は私に任せて!」


「ダメですわよ! ソーラは自分の体を──」


「いいの! 住民の命の方が大切だから!!」


「ソーラ……」


 私の体ならきっと大丈夫、また取り返すチャンスはやってくるはず。

 だから今は住民を助ける、それだけ考えていればいいの!


《ほう? 自らの肉体より、見ず知らずの命を選ぶのか?》


「当たり前でしょ!」


《ふむ……地球人とは興味深いな……》


「今日のところは諦めてあげる、だけどいつか必ず取り返すから! 覚悟してなさい!!」


《クックックッ、それは楽しみだ……では、特異点を転送!》


 ……私の体が消えていく……。

 消えていく自分を見るのは、これで二度目だ。


「ソーラ、大丈夫ですか?」


「大丈夫だよチコタン、心配してくれてありがとう」


 体は取り逃がしたけど、これは自分で決めたこと!

 だから後悔は一切ない!!


 気を取り直して、とにかく住民を助けるんだ!


「ダークマターで本部を支えるよ、みんな応援しててね!」


「任せてください! ソーラ、頑張って!!」


「ソーラ! しっかりニャ~!!」


「ありがとうソーラ……応援ですわね! 頑張ってくださいですの!!」


 うわぉっ!? ちょっと待った!!

 応援してとは言ったけど、抱きついて欲しいとは言ってない!

 いや、抱きつかれるのは嬉しいよ? 三人同時に抱きつかれるって天国だよ?

 だけど今はちょっと……集中出来ないかも……。


 どうしよう、鼻血出そう……いやでも本部を……。


 あー……えっと……う~ん……。


 ええいっ!

 もうっ、細かいことは気にしない!!


 鼻血でもなんでも勝手に吹き出しちゃえ。

 そんなこと無視して、全力全開だ!


「特異点の力、見せてやる!」


 ダークマター!


 本部を支えろぉーっ!!


 ──つぅっ!!


「うぐぐぅ……重いぃ……っ!」


「ひゃわわっ、凄い振動です!」


「浮きあがってるニャ? 持ちあがってるニャ?」


「これは……ゆっくり上昇していますわ!!」


 重い……だけど、なんとか支えられる!

 あとはこのまま……別の場所におろせば……。


「ううぅ……ダメだ……支えるだけで精いっぱい……」


 ちょっ……と、これは無理あったかも……。

 支えることは出来たけど、動かすってなるとかなり厳しい。

 変に動かそうとしたら、バラバラに崩れちゃいそうだよ。

 何かいい方法は──。


「お嬢ちゃん! ワシとダークマターを融合させるのじゃ!!」


「えぇっ、おじいちゃん何? ダークマター融合!?」


「ワシとお嬢ちゃん、二人がかりで本部を動かすのじゃ! お嬢ちゃんの支えている本部を、ワシの力でゆっくり動かすのじゃ!」


 なるほど、役割分担ってことだね。

 だけどおじいちゃん、そんなに無理して大丈夫なのかな……。

 いや、今はゴチャゴチャ考えてる場合じゃない、行動あるのみだ!


「分かった! おじいちゃんお願い!!」


「よしきた! ダークマターを融合じゃ!!」


 おぉっ、ダークマターが混じりあっていく。

 ダークマターを通じて、おじいちゃんの思いが伝わってくる。

 あぁ……おじいちゃんはホントに住民を大切に思ってるんだね。


 そして……私だけ三人に抱きつかれてて、羨ましいと思ってるんだ。

 このエロジジイめ……。


「よぉし! ゆくぞお嬢ちゃんよ!!」


「よろしく! おじいちゃん!!」


「任せておけぃ! ぬおぉっ、ダークマターよ!!」


 これは……いける!

 私とおじいちゃん、二人のダークマターで本部を動かせてる。

 このままゆっくり……ゆっくり地上におろして……。


「ふぬおぉっ……頑張れお嬢ちゃん~っ」


「おじいちゃんこそ……頑張ってぇ~っ」


 いい調子だ! 

 ゆっくりだけど、確実に地上へ近づいてる!


「うぐおぉぉっ! お嬢ちゃん~っ、もう少しじゃ~!!」


「おじいちゃんん~! もうちょっとぉ~!!」


 もう少し……もう少しで地上だ!


「ふいいぃぃ~っ! このままじゃぁ~! いぃけるぞぉ~!!」


「もおぉ~ひと踏ん張り! 頑張れぇ~!!」


 あとちょっと……!


 もうすぐ……!


 地上は目の前だ!!


「二人とも凄いですわ、その調子で──きゃあぅっ!?」


「凄い振動だったニャ! 何かにぶつかったミャ?」


「ひゃうぅ……あ……あれ? 揺れがおさまってます……?」


「はぁ……はぁ……おじいちゃん……」


「ぜぇ……ぜぇ……やったぞお嬢ちゃん……」


「うん……やった……やった!」


 フラフラする……気を失いそう……。

 だけど……やった……やったんだ……!


「「「ソーラ!」」」


「うん……やったよ!」

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