第83話 特異点

「えっ……私……?」


 私だ……地球人の私……。

 明峰空だ……。


「なんじゃ……地球人か……?」


「うん……地球人だった頃の私だよ……間違いない」


 動いてる……。

 手を握ったり、足を動かしたりしてるよ……。

 どうして動いてるの? 精神は切り離されているはずなのに……。


「各部位の動作、問題ありません。感覚器、正常に機能しています」


 喋った……。

 私はここにいるのに、向こうで私は喋ってる、それを私はここから見てる。

 えっと……よく分からなくなってきたよ、一体どういうことなの?


「フフフッ……計画は大成功ねぇ」


「計画?」


「あら、気になるのかしら? いいわよ、教えてあげるわぁ」


 なるほど、これもスプリィムの仕業か。


「私達ヴェーゼの目的は、全宇宙の完全支配なのよ。特異点はそのための兵器というわけ」


「何を言うておる! 特異点も一人の生き物じゃ、兵器などではない」


「そう、特異点は生き物なのよ。そして生き物には、感情っていう厄介なものがある。おかげで兵器として使うには、使い勝手が悪すぎるのよ」


 勝手なことを……。


「兵器は使用者の命令通りに動かないといけないわ、その為には感情は邪魔なの。だから心身分離術で、感情の源である精神を切り離したのよ」


 それはチコタンから聞いたよ。

 おかげで私は宇宙人の体になっちゃってるからね。


「でも残念ながら、精神を切り離した生き物は、うまく動作してくれないのよ。動かない物は兵器として使えないわ……そこで……」


 ……嫌な予感だ。


「人工知能をインストールして仮の精神を植えつけたのよ。命令通りに動く兵器として改造したの。結果は見ての通り、見事に動作しているわ!」


「馬鹿な! 宇宙支配ごときのために、少女の体を改造したというのか? 生き物を……命をなんだと思っておるのじゃ!!」


「宇宙支配のためなら、一人の命なんて安いものだわぁ」


 そんな……。

 私の体は改造された……兵器にされちゃった……?


「フフフッ、どうかしら? この素晴らしい計画を理解出来たかしら? もはやは、ヴェーゼの命令に従って動く、宇宙最強の生物兵器なのよ!!」


 兵器っていうことは、私の体を使って酷いことをするつもりなんだ。

 特異点の力を使って、誰かを苦しめるかもしれない。

 私の体は、誰かを傷つけるのかもしれない。


「隙だらけね、バリアーが脆くなってるわよ!」


「あぅっ……!?」


 そんなっ、あっさりバリアーを破られた!?

 どうして? ダークマターをうまく扱えないよ!


「いかんっ、動揺のあまりダークマターを制御出来ておらんぞ! しっかり気を保つのじゃ!」


「でもっ……でも私の体が……!」


「すっかり弱くなっちゃったわねぇ、もはや敵ではないわ」


 あぅっ、体を動かせない!?

 ダークマターで縛られてる?


「いいことを思いついたわ。せっかくだから、特異点の力を試してみようかしら?」


 ダメだ、動けない!

 このままだとやられちゃう。


「さあ特異点! あの邪魔者を排除してちょうだい!!」


「かしこまりました……」


 どうすればいいの……。


 どうすれば……。

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