第67話 非常事態

『こちらフローン警備船一号、異常はないか?』


『こちらフローン警備船二号、異常なし。そちらは?』


『こちらも異常なしだ……はぁ……』


 宇宙空間を漂う、二隻の宇宙船。

 惑星フローンを警備する、ヴェーゼの警備船である。

 通信機器を介して、二人の男が会話をしていた。


『ため息なんかついて、どうかしたのか?』


『あぁ……せっかくヴェーゼの一員になれたのにさ、俺達フローン周辺の宇宙警備しかさせてもらってないだろ? それがちょっとさ……』


『俺達は下っ端なんだ、仕方ないだろ』


『それは分かってるさ……けど異常なんて起きないし、朝から晩まで警備船の中でじっとしてるだけだぜ? どうにかなりそうだ……』


『確かに……非常事態用の通信ボタンは、ホコリをかぶってるな』


『俺のところも同じだ……このボタンを押すことは、一生ないのかもしれないな……』


『『はぁ……』』


 通信機越しに、深いため息をつく二人の男。


『俺達、こんな仕事ばかりでいいのかね……』


『いつか俺は、スプリィム様の近くで働きたいんだよ。今はそのための準備期間だと思ってる。スプリィム様って超美人だし、いつか隣に立って仕事がしたいぜ』


『いやいや、実は恐ろしい人だって噂だぜ? 失敗した奴はダークマターで即制裁だってさ』


『マジかよ……』


『しかも年々、ダークマターの力を強めてるらしい。本部の高精度バリアーは、スプリィム様一人で張り続けてるって噂だ』


『冗談だろ? バケモノじゃねえか……』


『今の仕事は退屈だけどさ、それでもスプリィム様の隣はゴメンだね』


『ヤベェ……目標変えようかな……ん?』


『どうした?』


『レーダーに反応だ……』


『反応……? おっと、こっちのレーダーも反応してる。これは……隕石か?』


『……隕石にしてはおかしくないか?』


『……おい……おいおい! ちょっと待て、なんだこれは!?』


 レーダーに映った反応を見て、慌てふためく男達。


『隕石じゃない! 宇宙デブリの塊だ!!』


『どういうことだ!? 宇宙デブリの塊って一体……いや待て、中心に別の反応があるぞ』


『これは……宇宙船の反応か?』


『つまり、宇宙船を中心に、宇宙デブリの塊が出来て、フローンへ向かってるってことか……って、なんじゃそら!? 』


 警備船の目の前を、宇宙デブリの塊が通過していく。

 あっという間の出来事だ。


『とんでもないスピードだったぞ! まるで隕石だ!!』


『とにかく本部に連絡だ、急げ!』


『あぁ……まさか非常事態用の通信ボタンを使う日がくるとは……』


『それにしても、あれは一体なんだったんだ?』


『さあな? どうせ考えても分からないだろ、あとは本部に任せようぜ』


『そうだな、俺達じゃどうしようもないしな』


『退屈でしんどい仕事だと思ってたけどさ、異常なんて起きない方がいいな』


『まったくだ……平和が一番だな』


『『はぁ……』』


 巨大な宇宙デブリの塊が、フローンへと迫るのだった。

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