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 どれくらい歩いたのか、どこにいるのかも分からない。

 

 少しだけ開けた場所にきた。黒いピアノがぽつりと置いてある。椅子には少年が座っていて、音遊びをするかのように鍵盤を細い指で優しく触れた。


 だらしなく着た白いシャツに、少し癖のある伸びきったボサボサの髪。まるでピアノの発表会を抜け出して来たみたいだった。

 

 目が合うと音が消えた。

 近くまで行って、何か話そうと口を開いてもお互い声は出せなかった。

 それでもよかった。

 言葉を解さずとも分かっていた。

 寂しいことも、悲しいことも、嬉しいことも。


 


 

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