第28話 ダーツでGET
「わぁお~! センパイセンパイッ、宝箱ですよぉ! お宝ですよぉ! やったぁぁぁっ!」
「ちょ、待て待て! まだ罠かもしれんのに迂闊に近づくんじゃない!」
「大丈夫ですってばぁ! こ~んな仕掛けに隠されたもんですよぉ! お宝に決まってるじゃないですかぁ!」
ダメだコイツ。金銀財宝に我を忘れるタイプみたいんだ。
「気持ちは分かるが、本当に少しだけ待て。
そう言いながら、宝箱に害がないか調べてみる。
〝宝箱 トラップ無し〟
どうやら罠ではなさそうだ。
「うん、良いぞ。開けてみて」
「やったぁ! じゃあしっつれいしまぁす!」
そんなに嬉しいのか、喜色満面で宝箱を開ける姫宮。
すると――パンパカパーン、パパパパンパカパーンッ!
何やらどこかで聞いたような賑やかな効果音とともに、宝箱から突然丸いパネルのようなものが浮き上がってきた。
「な、何ですぅ……これぇ?」
意気揚々としていた姫宮も、若干引き気味にそう口にした。
〝ボーナスゲーム突入 ダーツでGETのお時間がやってきました〟
そんな文字が表示された画面が、俺の目前に現れた。
パネルは均等に三分割されていて、それぞれに〝経験値〟、〝Sポイント〟、〝Tポイント〟と書かれている。
そしてパネルが急に超高速回転し始めた。とてもではないが俺の動体視力では、文字が書かれていることさえ分からぬほどのスピードで。
これは狙って射貫くなんてことはできそうもない。
〝一人、代表者を選んでください〟
そう表示された画面が現れた。
「はいはいはーい! センパイセンパイッ! 私がやりたいですぅ!」
「へいへい、わーったよ。じゃあ代表者は姫宮で」
俺がそう言った直後、姫宮の手にダーツの矢が握られた。
そして姫宮の身体がパッと消え、いつの間にか引かれていた白線の後ろへと立たされたのである。
「どうやらそっから投げろってことらしいな。……外すなよ?」
「ちょ、そこは応援してくださいよぉ!」
「頑張れ~」
「棒読み! もうっ、大丈夫ですよぉ! ダーツなら昔お姉ちゃんとやったことありますし!」
そう言いながら彼女は狙いを定めて、パネルに向かって矢を投げた。
確かにフォームは綺麗で、矢も真っ直ぐパネルへと向かいグサッと突き刺さった。
パネルがゆっくりと回転が収まっていく。
そして三つの枠のどれに刺さったのかというと……。
「きゃーっ! ほらほら見て見てセンパイッ! Tポイントに刺さりましたよぉ! 私ってばもってるぅ~っ!」
思わず俺も感嘆してしまった。最も欲しいものを当てるとは、これは見事に彼女のお手柄だ。
しかし幾らくらいもらえるのか……そう思っていると、いきなりパネルが変化し始めた。
今度は五分割だが、それぞれ数字が刻まれている。
50、500、5000、50000、500000
どうやらもらえるTポイントの数らしい。
しかしさすがに均等に振り分けられているわけではない。多い方は、的がやはり小さいのだ。
「よ~し! 狙うは五十万! このダーツのアイドルと言われた姫宮小色が、見事打ち抜いて見せますよぉ!」
いや、そんな二つ名初めて聞いたんだけど。
まあ本人が楽しそうなので別にいいか。
パネルが回転し始めると、また姫宮の手に矢が出現した。
「むむむぅ…………それっ」
さあ、今度はどれに刺さったのか……。
さすがに五十万は無いにしても、五千くらいは欲しい。全体の二十五パーセントはあるから可能性としては高い。
だが――。
「うにゃあぁぁぁぁぁぁっ! 何でですかぁぁぁぁっ!?」
項垂れる姫宮。気持ちは分かる。
だって――――500だもんな。
まさかそこを当てるとは、最初の運で使い果たしたのだろうか。
「ま、まあまあ、ゲームだしそういうこともあるって。気にすんなよ」
「うぅ……セ……センパァイ……」
たかがゲームに涙ぐまれても……。
するとその時、俺の目前にまたも画面が表示された。
〝ファイナルチャンス チャレンジしますか? ただし失敗するとボーナスは無しです〟
「……! お、おい、まあチャンスがあるみてえだぞ? どうする?」
「マジですくわぁっ!?」
ひ、必死だなおい……。
俺は物凄い形相で立ち直った姫宮に説明する。
「……でもやっていいんですかぁ?」
「まあ500っぽっちもらってもアレだしな。どんなチャンスがあるか分からんが、やってみたらいいと思うぞ」
別に失敗しても所持Tポイントが削られるなんていうリスクもなさそうだしな。
「分かりました! 次こそはセンパイのご期待に応えてみせますからぁぁぁ!」
おお……後輩が燃えとる。
チャレンジすることを了承すると、またパネルが変化し始めた。
今度もまた五分割だ。
×0 ×10 ×100 ×1000 ×10000
なるほど。上手くいけば、さっき獲得したポイントを大幅に増やせることができる。
ただし問題なのは〝×0〟がパネルの半分を占めていることだ。
せめて〝×10〟にでも当たれば良いのだが……。
「お願いっ! 神様仏様天国のお姉ちゃん! ――えいっ!」
実の姉に祈るのはどうかと思うが、さてさて……。
矢はちゃんとパネルに刺さったが果たして姫宮の願いが届いたのだろうか……。
パネルの回転力が次第にゆっくりとなっていき、そして――。
ガクッと、姫宮がダラリと頭を下げた。
直後、プルプルと身体を震わせ――。
「やったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
――満面の笑みで両拳を高く突き上げた。
見れば、姫宮が放った矢は見事〝×10000〟に命中していた。
全体の約1%ほどしかない的を撃ち抜くとは、なかなかに運が良い。
てっきりこの流れは0になるんだろうなって思ってた。そうなったら腹を抱えて笑ってやるつもりだったが……。
「やったじゃねえか、姫宮」
「んふふ~! どうですかぁ! 見てましたか私の雄姿をぉ! えへへへへ~!」
相当嬉しいのか表情が緩みっぱなしだ。
しかしこれで俺たちの目的である大豪邸購入へ、大きく近づいたのは確かだった。
「んじゃ、あとはコアモンスターをサクッと倒して先輩のとこに戻るぞ。きっと先輩も褒めてくれると思うしな」
「はぁい! それじゃあ行っきましょう~!」
スキップで部屋を出て行く姫宮についていき、そのまま屋上へと戻っていく。
だが辿り着く前に、屋上からけたたましい獣が叫ぶような声が聞こえてきた。
俺と姫宮は顔を見合わせてから、足早に屋上へと駆け上がる。
そしてそこで見たものは、断末魔のような咆哮を上げているオークジェネラルの姿だった。
両腕が切断された上、全身が傷だらけの血塗れ。まさに満身創痍ともいうべき様相を呈している。
一体何が……と思ったが、オークジェネラルはそのまま仰向けに倒れる瞬間に光の粒となって消失した。つまりは討伐されたというわけだ。
そしてオークジェネラルの巨躯によって見えなかったが、奴が消えたせいでそこに一人の人物が立っているのが分かった。
俺はその人物を見て思わず身が固まってしまう。
「あららぁ、もしかして先越されちゃったパターンってやつですかねぇ……って、センパイ?」
何でアイツがこんなとこに……っ!?
そいつは以前、東京駅で先輩と一緒に見た不気味な少女だった。
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