第12話 ギルドネーム
意外にも簡単で、ただ〝ギルドネーム〟と呼ばれるギルドの名前を決めて登録という文字を押すだけ。
「う~ん……名前は何にしましょうか?」
「ふむ、では『マチマチブラザーズ』!」
「却下」
「何故だいっ!?」
え? マジで今の本気だったの? 正直ネタとしか思えなかったんですけど……。
この人、頭良いのにネーミングセンスは壊滅的らしい。
「じゃ、じゃあ『愛の鈴を鳴らす二人』ってのは!?」
「…………」
「うっ……『先輩と後輩の愛の巣』でどうだい!?」
「…………」
「『こまったいは!』で問題ないだろう!」
「…………」
「…………そ、そんな冷たい目で見なくてもぉ……っ」
どうやら俺の言いたいことは伝わったようでホッとする。
というか自分たちの名前からモジるのはさすがにどうかと思う。マジでないわぁ~。
仕方なく俺が決めることにする。
「そうだなぁ…………『サーティーン』」
「ふぇ? 何だって?」
「いつから難聴系主人公になったんです? 『サーティーン』ですよ、『サーティーン』」
「……! ほほう、なるほどなるほど。タロットの『死神』から取ったのだね?」
本当にこの人は説明要らずだ。
タロットカードには『死神』というカードがあるが、そのカード番号が〝13〟なのである。
俺のジョブは『死神』だし、ちょうど良いと思った。
俺は〝ギルドネーム〟を記して登録する。元の画面に戻ると、〝加入〟と〝脱退〟の文字が消えていた。
どうやら入ることができるギルドは一つらしい。
そしてこれは恐らく『ギルドマスター』のみなのだろうが、〝解体〟という新しい文字がある。これは文字通りギルドを解体し、真っ白に戻すことを意味するようだ。
「むぅ、だがそれではボクの要素が少しもないなぁ」
「いや、俺のギルドなんでしょ? 別にいいじゃないですか」
「……そうだね。少し不満だが、君のギルドの初メンバーということで我慢しておこう」
そう言いながら何やらステータス画面を表示して操作し始めた。
すると俺の目の前に、
〝ギルド申請がありました。許可されますか? YES OR NO〟
そんな表示がされたので、とりあえず〝NO〟を押してみた。
「NOぉぉぉぉぉぉぉっ!? どういうことだい鈴町くん! 何で断るんだ! ボクか!? ボクが何か君の機嫌を損ねるようなことをしたというのかい! だったら謝るから! だから許しておくれよぉぉぉっ!」
あ、ちょっとお茶目しただけなんだが、想像以上に面白いものが見れた。
不安いっぱいに涙目になった先輩が、俺に縋りついてくる。
何だか子供をイジメている気がして罪悪感が酷い。
「あー手元が狂っただけですよ。今度はちゃんと許可しますんで」
「ほんと! それはほんとなんだね! ボクのこと実は嫌いだったとかそういう話かと思ったんだが!」
「違います違います。安心してください。先輩のこと、この大学にいる連中の中では一番好きですから」
「そ、そうか……な、何だか真正面から好きとか言われるとこう……照れ臭いものだね」
めんどくせえな。さっさと申請出してこいや。
とはさすがに可哀相なので言えなかった。
そして今度こそ言った通りに、申請を許可した。
するとギルド画面に、メンバー欄のところが空白だったが、先輩の名前が浮かび上がっている。
先輩の名前を押すと、彼女のステータス画面が出てきた。普通他人にはステータス画面を見せることができないので新鮮である。
「あ、ちなみにメンバーの詳しいステータスを見ることができるのは『ギルドマスター』だけのようだよ。ボクのところには、君の名前とレベル、そして体力と気力しか映し出されていないからね」
へぇ、つまりメンバーのことを『ギルドマスター』はすべて把握しとけってことなんだろうか。
「他にも〝通話〟という文字を押すと画面越しに会話が可能だ。試してみようか」
そう言うので、少し離れて試してみた。
確かに画面から彼女の声がして、まさに電話そのものだった。
先輩のもとへ戻ると、今後のことについて話し合う。
「これで俺たちはギルドメンバーってことですね。じゃあさっそくレベリングにでも行きますか?」
「そうだね。けれどダンジョンがある場所を知っているのかい?」
「それなんですよね。ダンジョンを探す機能とかステータスにはないんですか?」
「あいにくそれらしい機能は知らないよ。ただスキルにはそれに似た効果を持つものはあるだろう?」
え? そんなのあったっけか?
「この《漂流》というスキルさ」
「あー……確かにそんなのありましたね。けどなぁ……」
そのスキルは、確かにダンジョン探しには役立つかもしれない。
しかし《漂流》が持つ厄介な点が幾つかある。
一つ、一度使えば半分の気力を消費すること。
二つ、ダンジョン・他の『ギフター』・拠点・宿屋(ホテルなど)・店、のいずれかランダムに漂着する。
三つ、24時間で一度だけ使用できる。
こんな感じの気持ちが複雑になるような条件があるのだ。
一つ目はまあいい。俺ならすぐに気力は回復するから。三つ目もまあ、良くはないが大目に見よう。
しかし問題は二つ目だ。
この五つのどれかにランダムでテレポートするという点である。
テレポートってすっげぇ! って喜べる奴は素直なバカくらいだろう。
仮に他の『ギフター』と遭遇した時、相手が自分よりも強くて性格の悪い奴だったらどうだ? 先日倒したようなナイフ野郎だったら弱い奴なら殺されて終わるぞ。
それに拠点はともかく、他の場所だって東京とは限らないのだ。いきなり北海道や海外のダンジョンや店とかに飛ばされてどうしろっていうんだ。
こんなにも使い勝手の悪いスキルに頼るのはリスクが高過ぎる。
まあどうしようもない窮地に立たされた時に、最後の手段として持っているのは有りかもしれないが。
「先輩ってギャンブル好きでしたっけ?」
「いいや、しかしボクは賭け事をすると負けたことはないぞ」
そういやこの人と何かを賭けて勝負すると、必ずといっていいほど俺は負けていた。
「この《漂流》スキル、ギルドメンバーなら全員を連れて飛べるみたいだから試してみるか? 3ポイントで獲得できるからボクでも可能だぞ?」
「いや……でもですねぇ」
あまりにリスクが高い。この人、賢いは賢いのだが、たまに大胆不敵というか考えなしに行動することもあるから不安でしかない。
それにダンジョンに辿り着けたとしても、俺でも勝てないような格差の激しいモンスターばかりが棲息するダンジョンだったら、その時点でも終わりが決定してしまう。
綱渡りといか、糸渡りみたいなギャンブルだな。
「止めときましょう。地道に探す方が良いですよ」
「むぅ、そうか。面白いスキルだと思うのだがなぁ」
そういう知的好奇心……いや、知的冒険心を働かせるのは止めて頂きたい。
「……あ、それじゃ東京駅に行きますか?」
「む? そこはダンジョン化しているのかい?」
「多分。まだクリアされていないなら。ただ大規模ダンジョンなので、本格的な攻略は無し。あくまでも外からチマチマぶっ殺し作戦ってことで」
「なかなかにあこぎな戦法だな。まあ大規模ダンジョンということは、恐らくはかなり高レベルのモンスターが棲息しているのだろうから、深々と侵入するのも危険なのは理解できるがね」
「そういうことです。なら今から向かいますか」
「うむ。では……」
「……何で両腕を広げてるんです?」
「抱っこを所望する」
「断固として拒否する」
「何故だい!?」
「いや、そこはちゃんと自分の足で歩きましょうよ」
「いいではないか。高レベル者になって、体力も有り余っているのであろう? ならボクのような羽のように軽い存在を背負って行動したところで消耗率も知れたものだと思うが? それに考えてみたまえ。東京駅が近いとはいえ、そこまで歩くとなるとボクの体力は大幅に削られる。さあ本番だというところでヘロヘロでは、完全な足手纏いになると思うが?」
理路整然と言われてつい正しいと思いそうになる。完全に先輩の都合の良い言い訳でしかないのに。
しかしまあ、確かにいざダンジョンに入るにも確かにそれでは面倒なのも事実。実際俺がおぶって行動した方が確実に素早く動ける。
「はいはい。分かりましたよ。……これがナイスバディの美女ならなぁ」
「言っておくが聞こえているからね。そもそも君は胸の大小で女性を格付けするというのが間違っているのだよ。小さいには小さいなりに利点というのもあって、それを正しく理解するべきことで――」
「あーもう分かったんで、さっさと乗ってください」
俺は膝をついて背中を彼女に見せる。
「まったく、せっかちな男が嫌われるぞ。だが安心したまえ。たとえ世界に嫌われたとしても、ボクだけは君の味方なのは未来永劫変わることのない真実だからね」
「そんな厨二病みたいなことを言ってないで、さっさと行きますよ」
というか世界に嫌われるのはさすがに重過ぎるし。味方が先輩一人? 果てしなく心細いっつうの。
俺は何だかんだと言われながらも、彼女を背負い東京駅に向かって疾走した。
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