世界はなぜか騒がしい

多田七究

第一章 力なんてない

第1話 謎の声

「お前は、なんなんだ」

「五七」

「ご、なな?」

「コードネーム」

「だから何だ」

「目覚めなければ、ここで終わり」


 荒い呼吸が部屋にひびく。少年が布団をはねのけた。

 薄暗いなか、君は、夢の中での会話を鮮明に思い出していた。


 人もまばらな夜道。

 遠くで爆発音のようなものが聞こえる中、フード姿の小柄な人物が詰め寄ってくる。

「千年に一人現れるという、強大な特殊能力とくしゅのうりょく

「ぼくに? そんな物があるわけないだろ」

 もちろん、君は信じていない。しかし、相手にそれは伝わっていないようだ。

「伝説によれば、世界を変えられる」

「だから、ないって」

 相手は聞く耳を持たない。形容しがたいプレッシャーのようなものを放ち、周りの人を手も触れずに倒していく。

 悪夢でしかない。


「でしかない、って断定されても。なんだこの声は」

 きょろきょろとあたりを見回す少年の名は、ユウ。いまは天井を見つめている。自室にはほかに誰もいない。

 十代半ばにふさわしい普通の部屋で、特に目を引くものはない。平凡だ。

「わけがわからないぞ」

 一切の出来事が現実離れしている。

 ぼくに力があるわけない。これは夢だ。

 そんな風に、謎の声が聞こえつづけたことで、ユウはまだ夢の中だと思い込んだらしい。

 目覚ましのアラームを解除する少年。ベッドから起き上がった。

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