第72話胸囲の暴力
そんなわけで水泳の授業。
「臨める兵闘う者皆陣列れて前に在り」
俺は印を切った。心を平常に保つには信仰に拠るが一番だ。とはいえあのオメガ級の暴力は視線に入る度に襲われる。何ってもちろんアリスと姫子のおっぱい。一部の男子は目に毒らしい。そりゃまスクール水着の中に黒ビキニの美少女が二人居て、双方共に巨乳を超越しているとなれば、股間事情は冷静にとも行かないだろう。生憎と男子と女子で分かれてはいるも、遠目からでも破滅的に目を潰すのだから何をかいわんや。
「兄さ~ん」
「お兄様~」
その巨乳二人組はこっちに手を振っていた。身体の振動で胸が上下に揺れる。
男子諸氏は思うところ多々らしく、憎悪の視線で射貫かれる。別段気にする俺でもないも。ていうか姫子の奴……普通に俺をお兄様と呼ぶようになったな。歳はソッチが上だろうに。そして綾花が普通に隣に立っている。視線が死んでいるのは……おそらく……いや、止めておこう。コンプレックスを刺激するには責任がいる。
「しかし水泳な」
別に苦手でもないも、泳ぐという感覚が久しい。神鳴市は盆地だから海も無いしな。プールはあるが、あまり行かない。アリスへの視線が鬱陶しすぎた。それは今も同じだが。しかし夏のうだるさたるや。何と申すべきか。何とも申さないべきか。
とりあえずそこそこの時間測定に付き添って、それから自由時間。リア充ではないので、プールの縁に座ってパシャパシャと水面を蹴る。
「兄さん?」
ネット越しに仕分けされている境界線からアリスが声を掛けてきた。
「泳がないんですか?」
「既に泳いだからなぁ」
自由時間くらいは適当に過ごさせて貰う。ネット越しに隣に座り合う。
「水着は似合っているでしょうか?」
「ベリーグッド」
「やはは。それはようございました」
照れてみせるアリス。その胸が揉みしだかれた。
「お姉様。とても愛おしいです」
背中から忍び寄った姫子が愛妹の胸を自在に変幻させる。
「「「「「――――――――」」」」」
その淫靡な光景は男子諸氏には強烈だったらしい。ガッツリ見ていた。
「あのー。変な目で見られるので止めてください」
「お兄様もそんな目で見てますよ?」
「兄さんはいいんです」
何を根拠に。
「尤も兄さんさえ望めばくっころの状況も受け入れますけどね」
「そんな日は永遠に来ないので諦めまし」
「えー」
そこで不満そうな顔をするのがアリスの欠点だよなぁ。フニュフニュと姫子はアリスの乳を揉み続けている。女子生徒までガン見していた。
「お姉様?」
「はいはい?」
「わたくしの乳房も揉んではくださいませんこと?」
「労力的に却下です」
「お姉様に負けず劣らずとは思い申しますが」
「好きな人に揉んでもらいなさい」
「お姉様を愛しているのですけど」
「兄さんは恋敵ですか?」
「ある種ではそうですね」
そうなのか? 排除されるのか俺。
「いえ。お姉様が嫌うことはしませんが……」
「元より姫子では兄さんに勝てませんしね」
「わお。素晴らしいので?」
「自慢できる類でも無いんだが……」
単なる治癒の応用だ。別段誇らしげにすることでも無い。
「兄さんは私のおっぱいは好きですか?」
「大好きです」
「わたくしのおっぱいは?」
「大好きです」
「むー!」
しょうがあるめえよ。こっちだって健全な男子生徒だ。女子生徒に憧れを持つのはどうしても避けられないカルマである。可愛い女の子が巨乳なら、それだけで普通に価値を持つ。普通……で済めば良いんだが、ことアリスと姫子は突出している。俺だってクラッとくらい来るわ。意地でも言葉にはしないわけだが。
「大丈夫です! お姉様にはわたくしがいます!」
「百合かぁ」
そこそこ理解はしている。とは言っても「何なるや」って話ではあった。
「お兄様もわたくしのボインを触ってみますか?」
「殺されたくないので止めておく」
「絶対防御と聞きましたが?」
あながち間違ってはいないんだが、ソレで済まされるのも何だかな。ともあれ此処で女子生徒のパイオツを揉めば学内が震撼する。退学までありうるだろう。
「難儀な人の世ですね」
「お化けにとってはそうだろうよ」
そこに飛び込んだお前は何なんだ? いやまぁ御本人が望むならこちらから極力干渉もしないわけだが。それにしたって吸血鬼ね。「吸血で繁殖しない」は事実らしい。アリスは真っ当な人間だった。ここでアリスに真っ当の称号を付与していいかは別問題にあるとしても。
「お前らは泳がなくて良いのか?」
「兄さんの隣が落ち着きます」
「お姉様のおっぱいが落ち着きます」
なんか真っ当に見えて究極的に破綻してるな、お前ら……。
「姫子的にはアリスの何が気に入ったんだ?」
「義侠心と顔ですね。おっぱいは三時のおやつでしょうか?」
ナンパから庇ったものな。たしかに乙女でも恋する御尊貌ではある。金髪碧眼。白い肌と大きな胸。乙女のいっぱいを押し込めた完成形だ。居るだけで異界を作る……は既に述べたか。
「血も美味しいですし」
「そりゃようござんして」
「何に納得したんですか兄さん?」
「食い物が美味いに越したことはないだろ」
「うーん」
腕を組んで悩むアリス。またボインが揺れる。というか組んだ腕に締め付けられて、柔軟に形を変えた。それがまた男子を刺激し、
「無無明の如し……だな」
俺は嘆息する。
「お兄様はいつもこんな感じで?」
「慣れれば都だな」
「慣れなくても都だと思いますけど」
「精々頑張れ姫子。俺からコイツを奪うのは至難の業だぞ」
「うーん。お兄様に便乗するのも一つの手だと思うのですけど」
「それは3――」
「下品」
俺はネット越しにアリスの額を突っついた。
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