第5話学生食堂
「
「んー?」
女子が声を掛けてきた。三人グループだ。
「昼食一緒しない?」
「アリスに許可を取ってくれ」
「えと……アリスさん?」
「大却下」
だろうよ。四則演算より分かりやすい。
「それでは兄さん。学食とやらに行ってみましょう」
もうこの時点でかしまし娘は総スルー。いや、状況的に考えて安パイなのは間違いない判断ではあるも。
「妹でしょ?」
「ええ」
サクリと頷かれた。
「観柱くんはお兄さんよね?」
「だぁなぁ」
「あり得なくない?」
「よく言われる」
少し体感温度が下がった。春風のせいだと思いたいが、まぁ十中八九アリスだろう。俺と関わりを持つだけで、間接的な呪いの架け橋になる。呪詛の伝搬は感染類感呪術に繋がるのだ。
「――――――――」
ゾクリ。悪寒が奔った。もはや春風のレベルではない。
「そこまでだ」
アリスの金髪をクシャッと撫でる。
「あ、ごめんなさい兄さん……」
しおらしく謝る
「大丈夫だ。ここにお前の敵はいない」
「そうですけど」
「てなわけで」
俺はかしまし娘に肩をすくめてみせた。
「諦めてくれ」
「本気で言ってる? ガチで?」
死にたいってんなら止めはしないが、ここで衰弱死を起こされると俺が困る。恋愛に関しては諦めているモノだが、さすがにクラスメイトを呪詛で殺すとマスメディアがどんな反応をするのか? 考えるだけで胃が重たくなる。
「じゃ学食行くか」
「ええ」
頷くアリス。
「兄さん?」
「はいはい?」
「兄さんは私の嫁ですからね?」
「そこは違えていないぞ」
夫と言われないだけ常識的だ。
*
「なんにします?」
「ささみカツの定食」
値段が手頃で興味をそそった。
「私は塩ラーメンでも」
そんな感じで二人掛けの席に座る。
あらゆる学生がコッチを見ていた。
「兄さんはおモテになりますね」
「アリス程ではダイアナ」
ささみカツをアグリ。油と衣の味が肉に付随してジャンクな感じの味を演出している。それにしてもさすがに入学式の伝説も伝播はしているようだ。
「兄さんは私の嫁」
――観柱ヨハネ。
俺のこと。
「ちょっと手を出して貰って良いか?」
「構いませんけど……何か?」
ラーメンを食べる手を止めて、スッと片手を差し出してくる。
「お綺麗ですよ。お姫様」
その手の甲にチュッとキスをした。
「「「「「くぁwせdrftgyふじこp!」」」」」
狼狽の限り甚だしい。十把一絡げは俺とアリスのやり取りに騒然としていた。然程かね? ことさら何をしたわけでもないんだが。
「兄さん……えへへ……」
アリスは嬉しそうだ。
「応急処置だ」
「やっぱり溜まってる?」
「まぁな。もーちょい心に余裕が欲しいところだ」
「そうは言っても兄さんは私の嫁ですし……」
「嬉しいこと言ってくれるねアミーゴ」
そりゃアリスが嫁になるなら、それ以上は無いんだが。それにしたって色々と理屈や妥協が必要になるのも必須で……な。
「本当に肉奴隷になって良いんですよ? ウェルカム。カモン。スタンドバイミー」
「手は出さん」
「魅力無いですか」
「揉みしだきたく存じます」
そのおっぱいはある種の狂気だ。男子生徒を狂奔に覚らせるほどに凶悪な一品。それだけで人の意識を誘導する暗示装置でもある。
「兄さんになら幾らでも」
「うーん。無念」
「なんでですかぁ」
「人目があるからなぁ」
「じゃあ自分で揉みます」
フニフニ。リンゴ殺人事件。ブレザーを押し上げている双子山をアリスは揉んだ。男子生徒諸氏は微妙に人類股間計画。気持ちは分かる。金髪碧眼の美少女が自身の巨乳を揉めば、それはもう一人の自分が暴走するわけで。
「その辺にしとけ。純情な学生諸氏には刺激が強い」
「兄さんは?」
「慣れた」
決して『枯れた』わけでは無いのが悩みどころ。
普通に考えて自立程度は俺もする。問題は別にそこではなく。
「兄さんは嫁の自覚がありません」
「一方的に二次元を慕うのが嫁の定義だろ。三次元だろうと、憧れフィルターで一方的にコッチを見てるから俺は確かにアリスの嫁だ」
「にゃは~」
「ラーメンを食え。伸びるぞ」
「ですね~」
コッチもささみカツをアグリ。咀嚼と嚥下。
「五時限目は何でしたっけ?」
「サボる」
「何故に?」
言わなくても分かるだろうに。いや、むしろそのために確認しているのか? そうならそれでタチが悪いというものだが。なんだかなぁ……。
「呪詛払い」
「あー……お手数おかけします」
何時もそれぐらい健気なら良いんだがな。言って詮方なき……か。
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