異世界ガンマン相棒♂を失う

武海 進

強欲のマモン編

第一話 仕事と生活-①

 鳥の鳴き声が木霊する森の中を、森を歩くにはあまり向いていなさそうな格好をした栗毛のセミロングの少女と艶やかな黒髪をポニーテールに纏めた美しい褐色の肌の女性が歩いていた。


 何かを探している様子の二人は、視線に気づき足を止めた。


「見られてるみたいだな」


「そのようですわね」


 二人に存在を気づかれた存在達が、隠れることを止めて襲い掛かった。


 正体は子供のような体格で緑色の肌をしたゴブリン達だ。普通、女性が二人だけならば逃げ出すべき場面だが、二人は逃げ出すどころか悲鳴もあげない。


「ようやく出てきやがったか。襲うならさっさとしろっての」


 銃声と共に少女に棍棒を振りかざしながら襲い掛かろうとしていたゴブリンの頭に風穴が空いた。少女が腰だめに構えた銃からは煙が出ていた。


 突然の銃声に驚いたのか、ゴブリン達は動きを止めたが、すぐに雄たけびを上げながら少女に襲い掛かる。


 どうやら少女達を自分たちの命を一発で奪う武器を持った敵という認識はしつつも、生物としての欲求の方が勝ったらしい。


 ゴブリン達は知能が低く、どんな生物も見境なく襲う為、人間達からは害獣として駆除対象とされている。


 そんな彼らが絶滅せずに一定数から数を減らさない理由は、僅かでも有利と思えば襲い掛かることを止めない凶暴性と、人型の雌個体ならば大概は孕ませることのできる種としての繁殖力の強さにある。


 今回も相手よりも自分達の方が数が多い、そして相手が雌であること、それだけで一瞬で死んだ仲間のことは忘れ去ったようだ。


 ゴブリン達は獲物を逃さないように少女達を円形に囲み始める。


 囲んだまではよかったのだが、1体のゴブリンが久しぶりに雌を見たのか我慢しきれなくなり、連携を崩して襲い掛かる。


 こうなってしまっては他のゴブリン達も誰よりも早く獲物を自分の物しようと我先にと動き出す。欲望がむき出しになってしまった彼らにはもうそれが悪手だと気付けるだけの理性は残っては無い。


 連携を崩したゴブリン達は各個撃破されていく。


「ああもう!どいつもこいつも盛りやがって鬱陶しい!残り少ない弾をこんな奴ら相手に使いたくはねえんだがな!」


 そう言いながらも使い古したウェスタンハットにポンチョ、長年履いたのであろう傷の多いブーツという少し少女には似つかわしくない、典型的なガンマンの格好をした少女は次々とゴブリンたちの頭に風穴を開けていく。


「まあまあ、ボヤかないで下さい。いくら神から依頼されて仕事をしている身とはいえ必要経費と生活費は自分達でどうにかしないといけないのですから。それに後少しですよ」


 少女のぼやきを宥めながら長身のメイドがゴブリンのこめかみを蹴り砕く。どうやら短いスカートから際どい下着が丸見えなのは気にならないらしく、ハイキックで別のゴブリンのこめかみも蹴り砕いた。


「仕事だっていうなら手付金くらい用意しろってんだ!」


 怒りながらも引き金を引くのを止めない少女とメイドは、仲間の雄たけびを聞きつけて増援に来たのか、おこぼれに預かろうとしたのかは分からないが、森の奥から現れたゴブリン達も素早く骸へと変えていった。


「テメエで最後みたいだな」


 最初に襲い掛かってきた6体から12体程にまで数が膨れ上がったゴブリン達は、1体を残して皆地面に転がっていた。


「ゲギャギャギャーー!」


 仲間たちの死体を見てこのまま襲い掛かれば同じ運命を辿ると悟り、ようやく種としての本能よりも生物としての生存本能が勝った最後のゴブリンは、悲鳴を上げながら逃げ出した。


 だが、逃げるという判断を下すには少し遅かったようだ。少女達に背中を向け走り出した瞬間、少女が持つ銃が火を噴いた。


「やっと終わったか。残り少ない貴重な弾を使っちまったがそれだけの割りに合う仕事だったのか、これ」


「ええ、その辺りは大丈夫ですわ。私達の今受けられる依頼ではかなり報酬の良い部類に入るものでしたから。それにこの依頼は皆さん嫌がられるらしくてギルドでも持て余していたもののようですし、それを進んで引き受ければギルドの覚えも良くなりますわ」


 資金稼ぎが出来てギルドに顔も売れて一石二鳥の依頼だった、メイドはそう少女を諭しながらゴブリン達の死体を丁寧に並べ始める。


「そういうもんか。でも数は多いとはいえ雑魚を始末するだけの仕事なんてさほど面倒なもんでもないだろ」


「確かに魔獣の討伐よりは楽かもしれませんけど、普通の人間からすれば自分と同じ人型の生き物を殺す仕事なんて、あまり気持ちの良いものではないのでしょう」


 自分も同じ人間のように見えるが、どこか他人事のようにメイドは言う。


「俺は今更何とも思わないけどな。まあ、結局俺はどこに行っても汚れ仕事がお似合いってことか」


 そう呟く少女の顔は過去を思い出したのか、自虐気味に笑っていてるが瞳の光は消えていた。


「それでお前はさっきから何をやってるんだ?」


 気持ちを切り替えたいのか、ただ過去から目を背けたいのかは分からないが、せっせとゴブリンを並べるメイドに何気ない口調で尋ねる。


「全く、依頼書を読まなかったんですか?今回の仕事は基本報酬に加えて討伐した数に応じて追加報酬があるんです。だから討伐数をギルドに報告するために証明用の写真を撮らないといけないんですわ」


 面倒だな、と言いながらメイドの手伝いを始める辺り、少女の性格は口調程悪くは無いようだ。

 二人掛で12体のゴブリンを並べ、さらに一枚の写真に納まるように並べ方を何パターンか試して横4列、縦に3列に並べ、胴体に頭を重ねるという方法に行きついた。メイドがどこからか取り出したインスタントカメラで写真を撮った。


「カメラなんかいつの間に買ったんだ?」


 そんな金、どこにあったんだと少女は少し責めるように言うが、メイドに今回の仕事用にギルドから貸し出されたものだと言われると納得したらしく、カメラから出てくる写真を興味深そうに見ている。


「こんな写真一枚で仕事の証明になるんだな」


「以前は耳をそぎ落としてその数で証明していたそうですが、それをするワーカーも、持ち込まれるギルドもお互い精神衛生上よろしくないということで写真になったそうですよ」


「そりゃそうだろうな」


 耳を削ぐという行為自体もそうだが、ゴブリン達の体臭も生ゴミを夏場にしばらく放置したものよりも酷い匂いがしているので、ギルドに持っていく途中のワーカーから町中に匂いが拡散されることに住人達からクレームが多かったのも理由の一つのようだとメイドが補足する。


 ゴブリンの死体の写真を撮り終えた二人は、ゴブリンの増援が来た森の奥へと向かう。少女の方は討伐依頼と勘違いしていたようだが、彼女たちの今回の目的は討伐では無く、ゴブリン達が森に住みついているのかどうかの調査だからだ。


 増援が来た速さで分かる通り、少し進むと程なくゴブリン達の巣を見つけることが出来た。


 ゴブリン達は森で仕留めたのであろうシカを奪い合いながら食べている。数は20体程で、先ほど襲い掛かってきたのも合わせるとそれなりに大きな群れのようだ。


「まだあんなにいるのかよ。全部相手にすんのは流石に面倒だ」


 木の陰に隠れて様子を伺う少女は小声でぼやきながらもホルスターから獲物を抜こうとする。


「待って下さい、今回は殲滅ではなく調査が仕事です。この辺りで引き上げるとしましょう」


 同じく別の木の陰で様子を伺うメイドは、少女を止め、再びカメラを取り出して巣の様子を写真に収める。


「ゴブリンの存在どころか巣まで発見できましたし今回の依頼はここでお終いですわ。今から戻れば日のあるうちに町に戻れますよ」


 二人は巣で食事に夢中のゴブリン達に気づかれないように街道から少し外れた所にある森から抜け出した。

 街道に戻ると、小一時間ほど歩いて町に戻った。途中街道で繋がれた町々を往復する駅馬車にすれ違い少女は乗りたがったが、節約の為にとメイドに却下された。メイドは軽い財布を少しでも重くしたいようだ。

 

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