第50話


次に目を開けたとき、俺は、研究室の中に居た……


懐かしい匂いがした……

懐かしい感覚がした……


生きている銘が、そこに居た……


銘は、俺の姿を確認すると、飛びつくように俺の体を抱きしめた。

まるで、子供が泣きじゃくるように、声を出して泣いた。


俺よりも年下なのに、いつも大人ぶっていた。

精一杯背伸びして、俺よりもお姉さんであろうとした銘……


そんな銘が、今涙をぼろぼろ流し、涙も拭かず俺の体にしがみついた。


「帰って来ないと思っていた。」


この時、初めて自分がどんだけ残酷な事をしたのか……

それが初めてわかった気がする。

俺も、銘の体を力強く抱きしめた。


「ただいま……」


銘は、涙を流しながらはっきりとした口調で言った。


「もう、どこにもいかないで……」


「ああ、どこにも行かない……

 だから、これからも、ずっと一緒に居てもいいかな?」


俺の胸で涙を流し……

残酷な事をした俺を、受け入れてくれる銘を見ると……

絶対に幸せにしてやろうと思った……



だから、銘の手が血まみれになっている事など気になどならなかった。

『その事』には、一生触れないでいこう……

そう心に誓った……

答えは、心の中に……


おわり

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