第16話


俺が、その喫茶店に入ると、ケーキを食べている深雪の姿が見えた。


喫茶店に入ると、マスターが声を掛けて来た。


「深雪ちゃん、来ているよ……」


「あ、はい、じゃ、ホット一つおねがいします。」


「はいよ……」


この会話のやり取りも懐かしく感じた。

そう言えば、過去に来てから、このやり取りをしていないや……

俺は、そんな事を考えながら、深雪が待つテーブルに向かった。


「おはよう」


「あ、おはよう。

 早かったね」


深雪は、寝起きなのか寝癖が立っていた。


「で、打ち合わせって?」


と、俺が言うと深雪は頬を膨らませながら


「も~

 傷ついた心を癒して欲しくて、恋人を呼んだのに……

 やっぱ、君はわかってくれないのか……

 目の前の恋人は……」


と、『また無茶を……』と心の中で思いつつ尋ねて見た。


「何かあったの?」


「これから仕事なの~」


と、泣きそうな声で言った。


「ん?手伝おうか?」


「うんん……

 なんか、学会の発表があるらしくて、教授達とこれから、

 ミーティングなの~」


「そっか~」


「それはさ、置いておいて……

 明日の水族館の事なんだけど……」


「うん」


「十時に現地集合でもいい?」


「え?」


「何?私、変な事言った?」


「いや……

 いつもみたいに迎えに行かなくてもいいの?」


「いいの!

 だって、待合わせをした方が、なんかデートっぽいじゃん!」


「そっか、了解♪」


「朝這い、しようたってそうはいかないんだから!」


朝這いとは、夜這いの逆で、朝にする事である……


って、誰に説明しているのだろう。


そろそろ行かないと間に合わないとの事なので、深雪は仕事に向かった。


俺は、その夜……

自宅で、昔のアルバムを眺めていた……


「もうすぐ……もうすぐで、あの日が来てしまう……」


そう呟きながら、アルバムを反対から眺めていた。

アルバムを反対から、眺めると少しづつ過去に向かって行く感覚が怖かった。

これまで起きた事も知っている。

これから起きる事も知っている。


アルバムのページをめくる度に、その内容が鮮明に頭の中に送り込まれていった。


入社式の写真……

大学の卒業式の写真。


この二人だけのアルバムを深雪が勝手に作った時の写真……

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