第二章 シークレットステージ

第44話 装飾品



 ◇ ◇ ◇




 その日、ヴィヴィアン達四人は王都郊外にある例のダンジョンに向かっていた。


 冒険者ギルドに集まって話し合いをしたあの日から、全員が実家と取り引きをし、その結果、一週間の休学をもぎ取ることに成功したのである。


 それほど、幸運値を上昇させるという魔物の出現情報は価値があった。


 調査のためにそれぞれの家の私兵を動かしてしまうと、他の貴族家に勘づかれる可能性があるかもしれないと考えた当主達は、シリル達子供に一任することを同意してくれたのだ。




 そして今回も四人は、シリルが用意した重量軽減と隠蔽の魔法がかかっている馬車に乗り合わせている。


 目立たず移動ができるようにと、外装も以前より簡素な仕様に変更されていて、これなら貴族が乗っている馬車には見えない。まぁ内装は地味ながらも上等の素材を使っているのだが……。


 乗り心地は変わらずに最高級だったため、快適な往路であった。


 ただしこれは六人乗りの馬車なので従者たち全てを収容することは出来ず、乗れなかった者達は馬に乗って伴走してもらっている。




「じゃあ今のうちに、頼まれていた通信用の魔道具を渡しておこうか」


 走る馬車の中で、シリルがそう切り出した。


「おぉっ、ありがとうございます、シリル様。手に入ったんですね!」


「ああ。ちゃんと人数分、用意してあるよ」


「この短期間で、大変だったのではありませんの? 人数分を揃えられるのは?」


 心配そうにヴィヴィアンが聞いた。


 何しろここで言う人数分とは、彼ら四人だけではなくその従者達の分も含まれている。


 合計すると、十二個にもなるのだ。


「ははっ。そこは侯爵家の力を使ったよ。利用できるものはしないとね」


「まぁ、シリル様ったら」


 シリルにしては珍しいことに、冗談っぽく言ってくれたので、ヴィヴィアンもホッとして微笑んだ。




 自分の言葉に彼女が安心したことを確認してから、彼は持ってきたマジックバッグを膝の上に乗せた。


 このマジックバッグというのは、異空間収納が出来る超便利な鞄のことである。


 バッグの中の時間は停止しており、生き者以外なら何でも入ってしまう。


 ダンジョン探索にも欠かせない魔道具で、シリルの持っている物は荷馬車三台分は余裕で入る容量があった。


 本来なら、ヴィヴィアン達のような新人冒険者には手が出ない高級品なのだが、そこは貴族に生まれた特権を大いに活用させてもらっている。


 今回も四人全員が、似たような容量のマジックバッグをそれぞれ携帯してきており、出来る限り偽造しているが、邪な者達に見破られてしまえばお宝の山が動いているように見えることだろう。


 万が一のことが起きないようにと、実家から護衛とお目付け役を兼ねた従者や侍女をそれぞれ二人ずつ連れて来ているのも、こうした人為的な危険を防ぐためである。対人訓練を受けたプロ集団なので、安心できるというもの。


 それに彼等は冒険者としても先輩にあたり、対人だけではなく魔物討伐の経験も豊富なのでダンジョン探索に同行させるには最適だったのだ。




「……あったあった。これ、なんですけどね」


 ゴソゴソと探っていたマジックバッグから取り出したのは、美しい装飾が施された掌の上に乗るくらいの大きさの宝石箱。


 蓋を開けると、様々な形をした装飾品が入っていた。



 シリル以外の三人が、一斉に宝石箱を覗き込む。


 彼が持って来た通信の魔道具と言うのは、近年になって開発された新しいマジックアイテムだ。


 マジックバッグ等に比べると遥かに安価なのだが、まだ作れる魔道具職人が少ない事もあって、数が出回っていない。


 その為、ヴィヴィアン達も現物を見たことがなく、興味津々だった。


「このアクセサリーが通信の魔道具ですの?」


「まぁ、キラキラしていて綺麗ですわねぇ、フレデリック様」


「ええ、リリィ。確かに、きれいですが……」


 リリアンヌが感嘆の声を上げたように、ピアスやネックレス、ブレスレットや指輪などのアクセサリーには、とても繊細で美しい細工が施され、一見するとただの装飾品にしか見えない仕上がりになっている。




 魔道具らしくないし形状もバラバラだったので、戸惑ったフレデリックはシリルに尋ねた。


「あの、シリル様。これらのアクセサリーが全て、同じ効果を持つ魔道具なのですか?」


「ええそうですよ、フレデリック。こんな見た目だし、ちょっと信じられないかい?」


「はい、正直、驚いています」


「フッ、そうか。けれどこれには意味があってね」


 シリルの説明によると、一般的に冒険者は、パーティー内で見た目が同じ装飾品を装備しているのを見た場合、なんらかの魔道具ではないかと疑う癖がついているのだという。


 同じデザインの物なのだから、同じ効果がある魔道具じゃないか……と。


 特に今は、便利だが品薄で手に入らない通信の魔道具を欲しがっている冒険者は大勢いて、目を付けられてしまう可能性があるとのこと。


「だからまずは、相手に奪おうという気を起こさせない事が大切なんです」


「成る程。ではもしかしてこうして普通のアクセサリーに見えるようにデザインにしたのも?」


「ええ。いかにも魔道具ですというような武骨デザインは危険ですからね。避けてみました」


「そう言うことだったんですの」


 そこまで考えて準備をしてくれたシリルに、三人は感心して、感嘆の声を上げた。


 さすがに四人のなかで一歳年上なだけある。


「まぁ、装身具をつけている時点で人目を引くだろうから、何処まで効果があるのかは不明なんだけどね」


 皆から頼りになるなぁと尊敬の目を向けられたシリルは、少し照れくさそうにしながらも、これで全ての危険を回避できた訳じゃないからと念押しすることも忘れなかった。





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