第24話 ついうっかりやり過ぎた人達





 ◇ ◇ ◇




 ――意気揚々と集合場所に集まってきた面々。


 四組とも魔物討伐が上手くいったようで、初めは上機嫌だったのだが……。



「……ちょっとやり過ぎましたかね?」


 それぞれが持ち寄ったスライムの魔石の山を見て、ぽつりとフレデリックが呟いた。魔物を倒した高揚感が去り、冷静になってきたらしい。


「二時間という短期間での討伐にしては、この量は異常なほど多いのでは?」


「どう、だろうか? 初めてだし、私には基準が分からないのだが……多い気はする」


 シリルもどこか戸惑ったように答えるものの、彼にも分かるはずはない。


 そこで、冒険者の先輩である、それぞれの従者達に確認してみたところ、やはり冒険者一日目の新人にしては多いらしい。


 じゃあ、何故ほどほどで止めなかったんだ……と思わない事もなかったが、そう言えばちゃんと彼らに指示していなかった気がする。

 効率的にパーソナルレベルを上げる事を優先して考えて欲しいと言ったので、目一杯アシストしてくれたのだろう。

 身分を偽装して目立たないようにしたいとは言ったが、実力を隠して冒険者生活を送りたいという希望は伝えてなかった……かもしれない。




 いつもは冷静沈着なシリルも、初めての魔物討伐ということで知らず知らずに浮かれていたらしい。


  大人びていてもやはりそこら辺は年頃の男の子だということだろうか。


「どうしましょうか。討伐数はギルドタグに自動登録されますから、誤魔化せませんし」


「そうだな。下手に目をつけられたくなかったけど、これでは無理か?」


「……新人がいきなり頭角を表したら、おもしろく思わない同業者もいるはずですよね」


「ああ、分かっている」


 少し考えてからシリルが言った。


「やってしまったものは仕方がない。幸いまだ一日だけだ。冒険者の先輩が同行して手伝ってくれたことと、初心者のビギナーズラックだということにしてしまおう」


「はい」


「次回から気をつけるとして、今回は出来るだけ早くギルドに戻るんだ。冒険者達で込み合う時間帯は城門の閉門時間の前後だと聞いた。今ならその前に着けるかも。急ごう」


「分かりました」







 ――そこからの行動は素早かった。


 魔法のかかった馬車に飛び乗り、乗り心地無視で突っ走ってもらったのだ。


 その甲斐あってギルドの受付前に来た時には、夕方のピークを向かえておらず、昼過ぎほど空いてはいないがそこまで多くもないという状態だった。これなら大勢の目に触れるのは防げそうだ。


 ――後は、受付嬢が騒がなければ誤魔化しが効く。


 対応している彼女達の様子をじっと観察してからシリルが選んだのは、冷静に対処してくれそうな少し年齢の高めなベテランの方の所……。


 無愛想だが次々と手際よく、淡々とさばいていくのを見て、そこなら動じないだろうと並ぶことに決めた。







 ――結果的に、未来の宰相閣下の人を見る目は確かだったようだ。


「……これを全部、あなた達が?」


「ああ、そうだ。だが、初日と言うことで先輩達に指南を頼んで同行してもらっていたんだ。さすがに自分達だけの力じゃ、この数は無理だよ」


「……ふ~ん? まあ、いっか」


 少し胡散臭げに見られたものの、シリルが冷静に事情を説明した事もあり、問題なく受理してもらえた。


 大量の魔石を換金し、ギルドタグに依頼成功の情報を更新して返却してもらえたその瞬間、ようやく全員がホッと息を吐いたのだった。




「さて、今後のためにも、パーソナルレベルを計測していこうか」


「ここで分かるんですの?」


 声を潜めてリリアンヌが聞く。ステータスに関係することは神殿で調べるものだと思っていたのだ。


「ええ、受付カウンターの奥にいくつかあるそうですよ」


 ギルドには、会員だけが利用できる計測機器の魔道具があって無料で使えるらしい。

 命がけの仕事なため、普段から自分のレベルを把握しておきたい冒険者の為に置くことになったようだ。


 計測したい旨を伝えると、受付嬢が、カウンターの一番左にある奥へと続くドアを開けてくれた。

 そこには細長い廊下が続いていて、片側にズラリと扉が並んでいる。この部屋一つ一つに計測器具が置いてあるらしい。

 魔道具は高価なので、防犯のためにも受付を通さなければ入れない仕組みにしたんだろう。




 ――その中にちょうど一つ、空いている部屋があったので確かめてみることにした。


 順番にギルドタグをかざして鍵を開け、中に入る。


 畳二畳分ほどの狭苦しい部屋は、四人が入るとギチギチだったが、時間をかけたくなかったので無理やり入った。

 体重計のような、四角くて平たい形状の魔道具だけがポツンと置いてあり、これに乗って測定するらしい。


「ではシリル様からどうぞ」


「ああ、分かった」


 彼が計測器具に乗ると、すぐにパーソナルレベルが表示された。


 レベル3……短時間でこの数字はかなり良い方なのではないだろうか?


 その後に続けて三人も測ったが、全員仲良く同じレベルになっていた。レベルが低いうちは上がりやすいとはいえ嬉しい誤算だ。


「まあ概ね、成功かな」


「そうですね」


 怪我もなく無事だったし、過剰に魔物討伐した件についてはギルドも穏便に済ましてくれたようだし、結果だけ見ればまあまあ良かったといえるだろう。


 スライム討伐は手下足りておらず、早く駆除してしまいたいギルドにとって、ヴィヴィアン達はいい人材だ……そう、ベテラン受付嬢が割りきった判断をしてくれたから助かったのだろうけど、危ない橋を渡る事になってヒヤヒヤした。




 ――今回、ついうっかりやり過ぎてしまった点は各自反省することにして、第一回目の冒険者活動は解散となったのだった。





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