第36話 暴露



「勿論お手伝いしますよ。危険も伴うだろうけど、でも少しワクワクしますね。何が見つかるか、宝探しみたいで」


「フレデリック、浮かれるのもいいけれど、本当に油断大敵ですからね」


「分かってますよ、シリル様」


「相当量の魔物を狩り続けないと、金眼に出会うのは厳しいと思います。心構えをしておいて欲しい」


 そう言って二人に念を押した。




「分かりました」


「ええ、肝に銘じますわ」


「うん。それで、まずは手本を見せるのに今度、君達と一緒に行きたいと思っていたのですが……一つ問題があってね」


「まあ、何ですの?」


「それはわたくしは答えてさしあげますわ」


 そこに愛らしい女性の声が、割って入った。どうやら待ち人が到着したようだ。


「リリアンヌ嬢」


「ごきげんよう、皆様。遅れてしまって申し訳なかったですわ」




 これで全員が揃った。彼女が座ったところで、話し合いを再開させる。


「それでリリアンヌ様、問題とはなんですの?」


「ええ。近頃、例のアバズレ……ではなくって、ヒューシャ男爵令嬢がダンジョンに行こうとしている、という噂がありますの」


「リリー、それは本当ですか?」


「……残念なことに確かな情報ですわ。それにどうやら何か重大な秘密を知っているとか吹聴しては、男子生徒に声を掛けているようなのです」


「つまり、彼女はすでに幸運値の得方を知っている可能性がある、と?」


「ええ、そうではないかと考えましたの。ねぇ、シリル様?」


「そうなんですよ。私は彼女を避けていたので直接聞いたわけではないですが、どうやらクリストファー王子にも声をかけていたようなのです」


「まあ、第二王子殿下に直接?」


「ええ、不敬極まりないと思われませんこと?」


「相変わらずなんですね、ヒューシャ男爵令嬢は……」


「まあね。ただその際、彼女自身はダンジョンに一度も行ったことが無いような事を話していたと言うんですよ。なのに何故、知っているのか……どこでその知識を得たのかは不明ですが……」



 それを聞いてフレデリックと顔を見合わせた。


 シリル達も色々調べて分からなかったことを彼女が知っているのは、前世の記憶で得たものではないか? 


 だとするとこれは、乙女ゲームのイベントなのかもしれない……。仮にダンジョンが舞台なら、秘密の部屋とかシークエットクエストとか、限定企画を色々と仕掛けられそうだし、ゲーム的にもありそうだ。


 実際に、この世界の人達が知らない秘密を掴んでいそうなことが、その推察に拍車をかける。他にも、例えば各種ステータスを上げる仕掛けなどもあったりするのかもしれない。


 ゲームをやり込んでいるヒロインなら、知識があるんじゃないだろうか?




 ……もしもシリル達が偶然見つけた幸運値が上がる魔物の出現条件をヒューシャ男爵令嬢も知っているなら、検証のためにダンジョンに向かえば鉢合わせすることもあり得る。だから、二人も困ってどうするか相談したかったのだろう。



 こんなおいしい情報を、彼女が掴んでいるなら利用しない手はないだろうが、一人で行くには戦闘力が足りず無理なことは分かっているはずだ。


 だから、攻略対象にも声を掛けたと考えられる。一緒に戦うと新密度や好感度が上昇するから都合がいいし。

 それにもしかしたら、一番最初に幸運値を爆上げしておけば、ダンジョン内で他のイベントがスムーズに進むのかもしれない。彼女が各種ステータスの上昇に熱心でなかったのは、このボーナスステージがあることを知っていたからではないか。ここで一気に攻略に必要な様々な経験値を得るつもりなのでは……? 


 何だか幸運が彼女に転がり込んでいく様子が目に見えるようだ。


 嫌な可能性だがそれが当たっていそうで、ヴィヴィアンは顔色が変わったのが自分でも分かった。フレデリックも同じ結論に辿り着いたようで、チラリと様子を伺うと決意を込めた目をして、黙って頷かれる。ここが潮時なのかもしれない。


「……何か知っていることがあるなら、この際言って欲しい」


 その心の内を読んだかのようなタイミングでシリルが言った。


「君達も前からやけに、彼女を気にしていただろう? 今もそうだ。凄く動揺している」


「シリル様……それは、その……」


「……やっぱり、私には言えないことなのかい?」


「い、いいえ!? ただ、この春から私たちに起こったことは、にわかには信じがたい出来事ですの。お話してしまってもいいものかどうか、ずっと迷っておりました……」


 隠し事をしていたことは、ヴィヴィアンが貴族令嬢らしくもなく顔に感情が出やすいせいで既に気づかれていた。シリルは極端に表情が出ないせいで分かりにくかったが、今まで追及せずに見逃してくれていたのは彼の優しさだったのだろう。


「……とりあえず、話を聞かせてくれる気になったということでいいのかい?」


「ええ、お話致しますわ。その上で判断してくださいませ」


「分かりました」


 だから、今まで黙っていたことで傷つけてしまうかもしれなくとも、話さなくては……この機会を逃すと益々言い出しにくくなってしまうだろうから。ヴィヴィアンは覚悟を決めたのだった。


 それから、ある日突然、予知夢のようなものを視たこと。その夢では最悪、ヴィヴィアンには命の危険があるとなっていたこと、怖くなって保身の為に転校したことなどを話した。

 そして偶然、フレデリックも同じ予知夢を見たと知って驚いたこと。そこからは運命をねじ曲げる力を得るために協力して行動していることなどを、あらかじめフレデリックと打ち合わせしておいた通り、淡々と説明した。





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