第35話 出現条件
「では、彼女が来るのを待ちましょうか」
水面下での二人の攻防に気付いているのかいないのか……フレデリックがサラッと会話を進めた。
ちょいちょい迂闊な発言をする彼だが、今回はナイスアシストですわっと、ヴィヴィアンは心の中で拍手喝采した。
固定されていたシリルの冷え冷えした視線が外されたのだ。一旦、追求を諦める気になったらしい。
「いや、寮ぐらしの二人には門限があるでしょう。これはリリアンヌ嬢もご承知の件だから、早速、話に入ることにしよう」
「お気遣い、ありがとうございます。そうしていただけると僕達も助かります。ね、ヴィヴィアン嬢?」
「……ええ、そうですわね。それでシリル様、お話とは?」
「ああ。先日、リリアンヌ嬢と一緒にダンジョンに潜ったのですが、そこで思わぬ体験をしてね。是非二人にも伝えなくてはと思ったんです」
「……何があったんです?」
「それが、倒せば幸運値が上がる魔物に偶然、出会ったんですよ」
「え」
ええぇぇぇぇっ……な、何ですって――!?
「それは、本当ですの?」
「……信じられないのも無理はないけれど、本当です。私達も驚いたよ」
「そんな魔物がいるなんて……知りませんでした。勉強不足ですみません……」
「いや、これは噂話としても出回っていないと思うから、仕方がない。私も今まで聞いたことがなかったですから」
「完全なる偶然で発見されたってことですか……では、どうやって見つけられたんです?」
「今から話すよ。あれは、ダンジョンの十層に潜っていた時だった……」
その日もいつも通りダンジョンに潜り、経験値稼ぎをしていた。
順調に進んで第十層に来たとき、それと出会ったのだという……金眼の魔物と。
「金眼、ですか」
「ああ。薄暗いダンジョン内でその変化は異様に目立った」
通常、戦闘態勢に入った魔物の目は赤いものだ。それが、倒し続けている内に、稀に瞳の色が金色に変化する個体が出て来るようになったらしい。
その時は変異種かと思ったくらいで、特に深く考えずその後も討伐に集中していたのだが、パーソナルレベルの測定で気づいたんだとか……いつもより、幸運値が上昇していることに……。
その後の検証で、ダンジョンに入って金眼の魔物を討伐した後だけ上昇がみられたことで、確信を持ったという。
効率を重視するシリルは、毎回ギルドで依頼報告ついでに測定していたらしく、そのことが功を奏したようだ。
「測定にはお金もかかるし、普通の冒険者ならこんなに頻繁に測らないだろうからね。今まで判明しなかったんじゃな」
「なるほど……確かにそうですね。体力や魔力、身体能力やなどと違って、幸運値なんて曖昧なものは、ステータスを直接確認しない限り、レベルが上がっているかどうかなんて、本人にも分かりませんからね」
「そうだろう?」
そういった事情なら、今まで発見できなかったのも納得だ。
シリル達は、魔法学院に転入するため、早く精霊契約をしてしまいたいと思っていたはずだ。
精霊契約には運要素も強い。確率を上げるためには、幸運値のレベルアップをするのがいい。
しかし、一般的に幸運値は、上げたいと思って上げられる類のものではなく、完全に運が作用すると言われている。努力とかで、どうにかなるものではない、と……。
それでも何か方法はないかと模索して、図書館でも調べていたようだが、これといって効果的なものが見つけられなったらしい。
「何か幸運値を上げる方法があればいいのにと思っていたところにこれだろう? 判明した時は嬉しかったよ」
契約の泉の以外だと、なかなか人間と契約してくれる精霊に出会えない。数少ないチャンスをものにするために、探していたものが見つかって良かった。
「それ以来、ずっとダンジョンに通っているんだ」
「……もしかしてもう、出現条件とかも分かっているんですの?」
「まあ、ね。まだ確信した訳ではないんだが……同じ種類の魔物を一定数倒すと、目の色が変わる個体に出会えるのでは……と推察している」
それだと検証には、相当数の魔物を刈らなくてはいけなかったということになる。危険を冒さないと結果が出ないし、時間がかかっただろう。
「凄いですわ。よくそんな厳しい条件で発見出来ましたわね」
「まあ、そうだね。それこそ運が良かったんでしょう。さすがに危険が伴うから、検証にはリリアンヌ嬢を連れて行かなかったけど」
「シリル様もよくご無事で……本当に良かったですわ」
「ありがとうございます。貴方に心配をお掛けするのは心苦しいですが……でも行って良かったです」
そう言うと珍しくにっこりと笑った。
「どうした、フレデリック。先程から考え込んでいるようだが……?」
「あ、はい。 少し思うところがありまして……」
「なんだ、リリアンヌ嬢を危険に晒していないぞ」
「それは信用していますって。そうじゃなくて、幸運値が上がる魔物がいたくらいです。もしかしたらそのダンジョン、他の階でも何か、隠された力が眠っているのではないか、と」
「……その可能性は私も考えた」
「そうなんですの?」
「ええ。でも、さすがに時間が無くてね。偶然見つけた十層だけしかまだ検証してないから何とも言えないです。だから、君達にも手伝って欲しいと思って」
「なるほど、確かに手分けしてやった方がいいですもんね」
「ああ、君達だけで潜る日にもお願いしたいので、今日はその打ち合わせも兼ねている」
今日呼び出されたのには、そんな事情があったらしかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます