第16話 冒険者登録
この、 頭脳明晰で容姿端麗な完璧超人さん……笑ったら可愛いだろうに絶対笑わないと言うか表情筋が仕事をしていないご令息様は、
代々、宰相を務める事が多いレジーナ侯爵家ですが、長男である兄君が騎士団に入って家を出られた為、次男でありながら次期侯爵になることが決まっているお方です。
既にこの国の次代の宰相としても最有力候補になっており、フレデリック様と同様、乙女ゲームの攻略対象者の内のお一人です。
青味掛かった銀髪は、サラサラとしたストレートの髪質で、切れ長の少し吊り上がった紫の瞳に銀フレームの眼鏡をかけていらっしゃるものですから、冷たさに磨きがかかっております。
成長なさると氷の貴公子と呼ばれるようになるのも納得のアイスビューティーですわ。
今はまだ、少年特有の幼さは残るものの、厳しい無表情が板についた圧巻の美貌ですわね。
「で、君達はここで何をしようとしているのかな?」
「ご覧の通り、冒険者登録をしようとしておりますの」
「……何のために」
「もちろん、運命に打ち勝つためですわ」
「よく分からないのですが、運命に打ち勝つことと、
「シリル様、それは誤解ですっ。僕が無理を言って勝手に着いてきただけなんです。彼女を責めないであげてください!」
ちょっ、フレデリック様!? 貴方様の言葉のチョイスって、やっぱり微妙にズレてますわよっ。
庇ってくださる心意気はとっても嬉しいんですけれども、それでは援護射撃になっておりません。
ほらっ、シリル様の表情が益々凍りついてしまいましたわっ。ま、まずいです~。
「フレデリック、君には聞いていない」
「ううっ、す、すみません」
――これはいけませんっ。
誤解が加速しております。ここは
「冒険者になるのは、己を鍛えるためですわ。シリル様にご迷惑はおかけしませんから」
破滅するのは
「……何故です? 僕は君の婚約者ではないのですか?」
「それは、そうですが……」
だってシリル様が納得できるように説明をする自信が全くないんですものっ。
「……フレデリックと一緒ということは、彼は事情を知っているんでしょう?」
「……っ!」
ま、 まずいですわっ。
シリル様にこの調子で追求され一言でも喋ったら最後、芋づる式ズルズルとバレてしまいそうな予感がいたします~!? ここは貝になってしまうしかありません。
――その時……。
なぜ何も言ってくれないんだ、そんなにも私は頼りないのか……などとシリルが鉄壁の無表情の下で悩んでいるとは思いもせず、気づけなかったヴィヴィアンは、保身に走ってしまう。
何も言わず、黙り込んでしまった彼女を見て、彼は諦めたようにため息をつく。
「……分かりました。今すぐ聞き出すのは止めておいてもいいです。ただし、私も一緒に冒険者登録をしますから」
「え?」
「何か不都合でも?」
「い、いえ。そういうわけではありませんが。シリル様も登録なさらなくともよろしいのでは?」
「君は離れていると何をしでかすか分からないから……近くで見張ることにしました」
そう言って軽く口角を上げると薄く微笑んだ。
うわぁ、久しぶりに間近で拝見するシリル様の貴重な笑顔ですけれども、全然目が笑ってないです……私のせいですわね。
すっかり怒らせてしまいましたわ……すみません。
これ以上こじれる前に、ご提案を潔く受け入れしましょう。フレデリックさまもすっかり諦めモードですしね。
「分かりました。それでは参りましょうか」
冒険者ギルドの前で長々と喋っていた
もっとこっそり冒険者登録をするつもりでしたのに、予定が狂いましたわ。冒険者の皆様に絡まれないといいんですけれど……。
少しビクビクしながら、無遠慮な視線とひそひそと囁かれる言葉を聞くともなしに聞いていると……。
え? 目立った理由……じろじろと見られていたのは、服装のせいでもあるんですの?
……そういえば魔法学院の制服を着たままでした。アリス達はメイド服のままですし、シリル様に到ってはどう見ても貴族の子弟の格好。
……。
うっかしていましたわ。これは、私達が悪いですわね。完全に浮いています。
本当に今度からは気を付けませんと。冒険者生活を無事に乗り越えるためにも、アリス達に平民の中に紛れ込めるような地味で目立たない服装を用意してもらいましょう。
――その日は、冒険者登録の前に予想外の人の出現にわちゃわちゃして時間が掛かった事もあり、寮の門限が近づいてきていたので、手続きを済ませた後は次に会う約束だけして急いで帰ったのだった。
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