第12話 為せば成る……はず?



「……高みを見れば果てはないけれど、今後の為にもわたくしは力あるものを求めたいわ」


「かしこまりました。それでしたらやはり、魔物を倒すことが一番手っ取り早いですわ。より多く、より強い魔物を倒すことで、大量の経験値が得られてレベルが上昇しますから」


「分かりました。ありがとう、二人共」


 ヴィヴィアンの希望を聞き、最善策を提案してくれた双子。これで当分の目標は守護精霊との契約に決まったのだった。




「というわけですのでお嬢様、レベル上げを致しましょう」


「そうね。精霊が契約者を好みで選ぶと言う部分は運要素が強そうですが……。でも、それ以外の部分を完璧にしておけば、少しでも可能性が上がりますものね」


「はい、おっしゃる通りですわ。その為にもまず、この機会に以前より検討していた冒険者登録をしてしまいませんか?」


「……冒険者登録…… 成る程。依頼を受けてガンガン討伐してレベルアップを図るのですね!」


「その通りですわ、お嬢様。 本来なら冒険者登録など、私達はお止めする立場なのですが……」


「お嬢様のお命がかかっておりますもの、貴族の矜持にこだわっていられませんし。勿論、私とセレスもサポートいたします」


「二人共、うれしいわ。わたくし、やります!」




 乙女ゲームの世界には似つかわしくない単語ですけれど、せっかく転生したんですもの……一度は冒険者というものを体験して見たかったっ。

 公爵令嬢という身分に生まれた身としては、無理だろうと諦めておりましたが、これなら自然な形で冒険者を登録できますわね。


 それにもし、悪役令嬢として断罪の未来が回避できなかった場合でも、この経験は私を裏切らないでしょう。


 処刑という最悪の場合以外ならば、自力で乗り越えられる力とある程度の逃亡資金を、鍛えながら稼げるのも魅力的です。


 公爵家から除籍や追放などをされた場合でも、冒険者カードを持っていれば国境を超えられますから一人で生きていけるでしょうし、全く無駄になりません。いいこと尽くめですわね!




「その意気ですわ、お嬢様。しっかり力を蓄え守護精霊を手に入れて、十六歳のお誕生日を乗り越えられる力をつけましょう!」


「……後三年でなんとかなるかしら。パーソナルレベルを上げたとしても、精霊は気まぐれだというし心配だわ」


「ご安心ください、お嬢様。それまでにはアリスと共に、もっと守護精霊の契約についての詳細な情報を集めまてみせますから」


「それに何も、契約の機会は一度だけではありません。在学期間中は、何度も挑戦出来るそうですのでご心配には及びませんわ」


「ただし、なるべく低年齢の内に契約した方が精霊との親和性が上がりやすく、より良い関係を築けるらしいので一緒に頑張りましょうね」


「分かりましたわ、弱気になっていては叶うものも叶いませんものね!」


「その意気ですわ、お嬢様っ」


「悲惨な未来視を実現させない為にも、この三年間は頑張りませんと……」


「ええ。お嬢様の誕生日以降の未来は、お二方ともご覧になっていらっしゃらないとか。 ということはそこからは確定していない、と推察できますわよね?」


「そうね……」


「その時期さえ無事に乗り越えられれば、未来を変えられたと、言えるのではないかと……」


「ええ、そうなることを願っているわ」


「そこまで、なんとか回避しましょう、お嬢様」


「……アリス。そう、ね」




 はぁ……前世の記憶が戻るほんの少し前までは、 未来は明るく輝いて見えていたものですのに、一気に泥臭く汗臭い現実になりそうですわ……。


 そうやって努力を続けても、十六歳の誕生日を迎えるまでの三年間は、とても心穏やかに過ごせないでしょうね。


 でもこれが現実……。


 どれだけ嘆こうが、目を背けようが、夢から覚めるようにこの現実が消えることはないのですから……。


「では、足掻いてみましょうか。運命を跳ね除けられるだけの力を手に入れるために!」


「「はい! 私達はどこまでもお嬢様と一緒ですから!」」


 ヴィヴィアンの言葉に、アリスとセレスが力強く頷いた。






 ◇ ◇ ◇






「ごきげんようヴィヴィアン様、そしてお久しぶりですわ、フレデリック様。朝からお二人でご一緒に登校されていらっしゃるとは……随分とお仲のよろしいこと」


「リリアンヌ……どうしてここに」


「あら、どうして……なんて。わたくし、婚約者である貴方様に会いに来ただけですのよ。わたくしが来てしまっては何か不都合がございましたか?」


「不都合だなんてそんな……思いがけずこうして君に会えて、とても嬉しいよ。ただ、少し誤解してるんじゃないかなぁ……なんて思ったものだから……」


「誤解? この状況で誤解も何もないのでは? 噂の真相を見せつけられた気分でございますわ」


「うん、やっぱり誤解しているよね!?」




 リリアンヌ・マリー侯爵令嬢……。


 王立学園に通っているはずのフレデリック様の婚約者で私の友人。


 フレデリック様がわたくしを追いかけてこの学園に来たのではという噂をすっかり信じてしまわれたようで、爽やかな朝にはふさわしくない、ドロドロした怨念を背後に背負っていらっしゃいます。


 そんな凄みのあるお姿ながら、あくまでもにこやかで可憐な微笑みを浮かべ、淑女らしさを決して崩さないというミスマッチさが異様な雰囲気を漂わせており……お怒りの深さが感じとれて大変怖いです。今すぐここから逃げ出したい。



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