第11話 精霊契約
「これはお二方に説明するのが面倒なことになりそうですわねぇ、セレス」
「ええ、本当に。誤解が誤解を生んでややこしく拗れそうな予感がしますわね、アリス」
頭が痛いと言うように額に手をやり難しい顔をする二人。さすが双子だけあって、そうやって悩む仕草もぴたりとシンクロしている。
「……ですからその誤解を解くまでは、いいのですけど駄目って事なのですわ!」
「成る程……分かりたくないですけれどもよく分かりましたわ、お嬢様」
「急いで対策を話し合うはずでしたのに……その前にフレデリック様が彼女に影をつけて監視すると言う妙案を思いつかれましたでしょう? それが素晴らしかったのと、ちょうどそのタイミングで寮に着いてしまって、ついうっかりもう一つの方を忘れてしまったといいますか……」
「まあ、それは仕方ないですね。ついうっかりはお嬢様の専売特許のようなものですし」
「……っ!
「ええ、ええ。とてもよく存じ上げておりますわ、お嬢様。ですから、ついうっかり……なのでしょう?」
「アリス!」
「まあまあ、お嬢様。落ち着いてくださいませ。その対策も早急に考えると致しまして、まずはフレデリック様陣営と話し合った結果を先にご報告させてくださいませ」
「はぁ、分かりましたわ、セレス。……何ですの?」
「はい。まずは、精霊契約に力を注がれてはどうか、というご提案でございました」
「精霊契約?」
「ええ。魔法学院では一定の資格を満たした希望者に限り、契約の手助けをしてくださるそうです。一般的には知られていないですが、この学院の生徒の特権だそうですわ」
精霊契約にも色々な種類があるそうだが、今回目指すのは、その中でも運要素が強く特に難しいといわれている守護精霊との契約。
守護精霊とは、契約者の一生涯のパートナーとして困難にある時にも寄り添い、守護してくれる存在……魂の伴侶とも言うべきものらしい。
契約を結び加護を授けられると幸運値が上がったり、新しい魔法を覚えられたりと恩恵を受けることが出来るのだとか……。
「まあっ、幸運値が!?」
「今のお嬢様に一番必要なものかと」
「その通りでしてよっ。是非、成功させたいですわ!」
精霊達は魔法学院の裏手にある、自然豊かな森の中の小さな泉周辺に、好んで住み着いているらしい。
この魔法学院の学園長がエルフ族の女性だというのは有名な話だ。 他種族に混じって暮らすことを嫌うエルフ達の中で、人間族の魔法学院で教えている彼女は、変わり者として知られている。
自然を愛し自然と共に生きるエルフ族と精霊族は良好な共存共栄関係を築いていて、エルフ族の集落には妖精や精霊が溢れていると聞く。
警戒心が強く、人里にはあまり近寄らない彼らが裏の森に住んでいるのも、長年彼女が暮らしているからこそだろう。安心して集まってきたのではないか、とのこと。
「なので契約には、学園長に気に入られた方が有利だという噂があります」
「どのような手段を用いられているのかはわかりませんが、手助けしてくださっているのは確かのようです。エルフ族は精霊に好かれますからね……毎年若干名の契約者が出ていることを鑑みると、噂の信憑性は高そうです」
「その泉は『契約の泉』、又は『精霊の泉』と呼ばれているそうで、守護精霊となってくれるような知能の高い精霊達がいる確率が高いようですし、絶好の機会ですよ」
「まぁ、そうなんですの。この学院に来れて、本当に良かったですわっ」
守護精霊との契約が成功すれば、
「それでその、契約に必要な一定の資格ってなんですの?」
「はい。まず絶対的に必要なのが、魔力総量多さだそうですわ」
契約の対価は守護する者の魔力。その魔力を得る対価として、従順に好意的になる。
精霊の強さや好みにより必要な魔力の量も質も属性なども異なり、強力な精霊はそれ相応のものを契約者に求めるらしい。
――貴族階級の者は生来、保有する魔力総量多い。
これはこの国を建国するにあたり、魔物や自然災害などの脅威から微量な魔力しか持たない弱き民を、現在の貴族階級である魔力を持つ強き者たちが保護下において守ったことに由来する。
いつしか国と呼べるほどの民が集まり、その中で一番魔力の強かったランドル家が代表に選ばれ、この地に王国を建国した。
そのため王家に次ぐ最上位の貴族に位置する公爵家に生まれたヴィヴィアンも当然、生まれながらにして膨大な魔力を持っていた。
だがそれだけでは守護精霊は契約に頷かないらしい。
「次に必要なのがパーソナルレベルの高さだそうです。精霊は強さに惹かれるので、守護する者にはより高い者を求めるみたいですわ」
「お嬢様でしたら、今でも普通の精霊と契約されるには十分でしょう」
ただし一つ問題点があります、とアリスが指摘する。
「守護精霊レベルとなると話は別です。魔力総量の基準は満たしていてもパーソナルレベルの高さが足りないかと。あれは魔物を倒すことでしか上がっていきませんが、これまでお嬢様はそうした経験は積んでこられませんでしたからね」
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