第6話 戦闘メイドは双子の姉妹
「一旦、彼女から離れてしっかりと現実を見てくださいませ。攻略対象の皆様方は総じて、素晴らしく頭脳明晰でいらっしゃる設定でしたわよね? 今こそ、そのハイスペックさを役立てる時ではありませんか。責任を取って、何か対策をお考えくださいな」
猪突猛進型で直情的な設定である
その点彼なら、ヒロインさんにさえ出会わなければ優秀さが崩れない方ですもの、きっと良いアイデアが出てくるでしょう!
――フレデリック様、期待しておりますわ!
「う~ん。じゃあ君の婚約者も巻き込んで、事情を打ち明けて相談するっていうのはどうでしょう? 彼って天才だし、パパっと解決してくれるかも?」
……甘いですわ。
「あの方が素直にお信じになると思います? こんな荒唐無稽な話を……」
「ああ……いや、そうか。
「そうでしょう?
「まあ事情が事情だし、仕方ないよね」
「ええ、総じて突発事項にはお弱いですから」
――何といいますか……。
脳筋とは別の方向で残念な方なんですの……。
私の婚約者で攻略対象の一人である、レジーナ侯爵子息のシリル様は、頭も良く律儀に約束事も守ってくださる、とてもいい方なんですけれど、とってもお堅いのですわ。
幼いながらも美しく整った人形のような容貌に、刺すように冷たい怜悧な切れ長の目を持ち、まるで彫像のように動かない冷たい表情を仮面のように張り付けていらっしゃるお姿は、クールビューティーならぬ、アイスビューティーといったところでしょうか……。
そのご容貌そのままに、カチンコチンでいらっしゃるのです。
表情筋が乏しいことはご本人も自覚しておられるようで、怯えられるほどの顔なのかと密かに傷ついているのも存じ上げておりますけれど……。
宰相閣下のご指導の賜物なのか。安易に人を信用するな、親しい者であっても裏の裏まで読んで行動しなさいといわれて、素直にそれを実践なさっているおかげで、こちらの一言一言を考えすぎて時には行き過ぎた行動を取ってしまわれますの。
融通が効かない、自分の目で見たものしか信じない方だと思ってもいただいてよろしいですわ。
要するに、過程よりも結果が重要であると考える私とは真逆のお考えをお持ちなのです。
もし、
「ではまず、対策できそうな方から始めてみるということで……こういうのはどうでしょう。影を使って彼女を監視させてみては?」
「まあっ、それはいいですわね!
「あ、ありがとう。そんなに喜んでもらえると嬉しいよ」
彼は将来に備え、その手のものを幾人か動かせるだけの権限を与えられているので、すぐに実行可能らしい。
――羨ましいことですわ。
「まずは何としても、彼女の狙いを正確に探ること……ですかね。逆ハーレムルートとか厄介なのを狙わないでくれると良いんですけど。巻き込まれたくないですし」
「そうですわねっ。ヒロインさんの選択次第で最悪、
「う、うん、頑張ります」
そうこう話しているうちに女子寮の前まで来てしまった。
魔法学院の女子寮は五階建ての大きな建物で、三階から上には、大貴族の子女が執事やメイドを連れて入学することを想定した部屋が作られている。
ヴィヴィアンが入っているは当然、最上階の一画で、居間と寝室に小さめの書斎、台所や浴室の他にメイドたちの控え室まである贅沢な空間であった。
――そして、その寮の前には彼女専属の戦闘メイドである、アリスとセレスが待機していていた。この二人はヴィヴィアンの乳姉妹で、双子である。
初対面の人にはどちらがどちらか分からないと言われるほど、よく似ている二人……。
しかし、子供の頃から一緒に育ったヴィヴィアンにとっては、彼女達を見分けることなど朝飯前だ。一番簡単な方法としては、泣きぼくろが右にあるのがアリスで、左なのがセレスである。
帰ってきた主人達を見た途端、揃って綺麗なお辞儀をし、恭しく頭を下げた。
ヴィヴィアンはカーティス公爵家の令嬢という、王家の次にこの国で地位の高い家に生まれた。
そのため幼少時より、いらぬ怨恨や身代金目的の誘拐などを含め、常に命の危機にさらされてきている。
ヒロインが成り上がる為の踏み台となる悪役令嬢という、嬉しくない役割を割り振られている他にも日常から、危険いっぱいのハードな日々を送っているのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます