第2話 早速、回避に入ります!
それでもそれがゲームの世界なら笑っていられるが、現実問題、そんな悪役令嬢に転生した私は、一瞬で目の前が真っ暗になってしまった。
何で私がこんな目に、と思わず叫び出したくなるほどの衝撃を受けた。
――でも、ギリギリで救われたんだと思う。
だって今日はまだ、入園式の当日……。
ヒロインさんにも出会っていない。
自分の婚約者は別として、何人かいた攻略対象の内、友人のイチオシだった第二王子の眩いお姿は先程の新入生代表の挨拶で拝見したけれど、それだけだ。
見ただけで何も始まっていない。
――今ならまだ、舞台の幕は上がっていないはずだ。
そんな訳で、
乙女ゲームの強制力がどこまで働いているのか知りませんけれど、ここから転校できるようならそれほど強くはないはずです。
それを確かめ、どこまで自分の意思で動けるかを見極めるためにも、さっさと行動を起こさないといけません。
婚約者のレジーナ侯爵子息シリル様も、第二王子殿下クリストファー様も、現時点ではお子様である。
シリル様は十四才で、殿下は十五歳……可愛いとは思うけれど、三十代後半まで生きていた前世の記憶を継承している私の好みからは外れている。
その事に気づけた時にはホッとしたものだ。
上品で美形なお坊ちゃま達に胸がときめかないということは、自分の好みや気持ちまではシナリオに支配されていないんだって、はっきりしたのだから。素直にうれしかった。
前世でも特に上昇志向のない平凡な喪女だったし、その記憶があるせいか、婚約者の身分にも自分のステータスにも特に執着心がないというか。
まあ、王家を除けばこの国でこれ以上ない上位貴族の公爵家に生まれたわけで、それだけで十分すぎるだろうから野心的になれないのも当然かもしれないけれど……。
婚約に関しては、カーティス公爵家とレジーナ侯爵家という家同士の契約の為、私の一存ではどうする事も出来ない状態だ。
なので今のところ、積極的に婚約破棄しようとまでは思っていない。
でも、危ないので保身の為にも物理的な距離を取らせていただきますわっ。
君子危うきに近寄らず……ですから!
――と言うわけで……。
どうぞシリル様、
良識ある紳士淑女の皆様から冷笑されようが、お好きなだけイチャイチャなさればよろしいわ。
それでは、お幸せに!
ごきげんよう~!!
◇ ◇ ◇
――そうして迎えた、二度目の入学式。
ここは王都郊外にある、乙女ゲームの舞台となる王立学園とは別の、より専門的で高度な魔法が学べる、魔法学院。
入学時期が一ヶ月ズレていることが幸いし、無事に試験を受け合格することができた
魔法学院とは、入学試験その他諸々がやたらと難しく、厳しい教育機関である。
しかしそこは、幼少時から英才教育を受け続けてきた、貴族令嬢としての底力が役立った。
プライドが高く、人に劣ることをよしとせず、自分にも人にも厳しい性格は婚約者には煙たがられたが、幸いその努力に見合う結果を出せる地頭の良さもあって、見事に難関を突破したのだ。
ヒロインのライバル令嬢という設定だけあって、その辺は高スペックなのである。感謝しかない。
だが、王立学園より余程厳しいといわれる所以はその進級方法にあり、入学したからといって油断できない。
毎年行われる進級試験に合格しなければ即退学になるし、その試験が難しく今まで飛び級したものも殆どいないと聞く。
ここは袖の下が通用しない、完全なる実力主義の世界なのだ。たとえ王であっても、横やり一切、入れることができないという特殊な環境なのである。
卒業までの条件が厳しいので、在校生は必死に勉学に励む必要があり、一部の天才を除いて、社交の場に出ることさえ難しくなってしまうほどだとか……。
貴族にとって、社交界での人脈作りは大切なもの。成人した後の立ち位置にも影響を及ぼす可能性がある。致命的となりうるため、主要な大貴族はこの学園に通うことを避けるため、入学者数も少ない。
しかし王立学園なら、その点は安心である。
最短の学びの期間は一年間以上。在学には、十三歳から十七歳までの年齢制限があるが、その間に試験に合格してしまえばいつでも卒業することが出来るのだから。
上級貴族は入園前には既に学園で学ぶ知識を一通り身につけており、勉学のみが目的なら行く必要はない。
それでもここへ通うのは人脈を築き、貴族にとって大切な社交の基本を学園生活中に身につける為だ。
つまり、万が一にもキラキラした輝かしい経歴を誇る攻略対象の青年貴族達が来ることはなく、勿論、メインの攻略対象がいる王立学園を捨ててまでヒロインが来ることもあり得ないだろう。
王立学園の入学式に、彼女が出席していたかどうかの確認はとれていないが、その点は心配していない。
王立学園は、社交術も含め、広く浅くいろんな知識を学べるが、ここ魔法学院では魔法のみの一点突破。
それだけにつける職は限られてくるが私にとっては都合がいい。専門性が高いため、職に就くのが難しい女性であっても食いっぱぐれることも少ないからだ。
万が一、シナリオの強制力とやらが働いて家から追放されてしまった場合でも、十分生きていけるだろう。
ここで得られる知識は、必ず将来役に立つこと間違いないのだ。
という訳でこの魔法学院は悪役令嬢ヴィヴィアンにとって、破滅に向かってまっしぐらな未来を回避しながら学べるという、優しさ溢れる場所なのである。
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