悪役令嬢だと気づいたので、破滅エンドの回避に入りたいと思います!

飛鳥井 真理

第一章 目覚めた記憶

第1話 ……この世界って、まさか?




 ――ああ神よ、感謝致します。


 このタイミングで前世を思い出せたことに!

 

 今ならば、まだ間に合うはず……。



 せっかく生まれ変わった命ですもの。


 たった十六年で二度目の人生が終了する運命だなんて、とても受け入れられませんっ。


 このまま何もせずにいれば最悪、一生涯の幽閉や、実家を巻き込んでの没落、果ては処刑まで、バライティ豊かで全く嬉しくない灰色の未来が待っているのです。


 過激で残酷な結末を向かえることになりかねないなど、冗談ではありませんわ。


 そんな夢も希望もない未来、全力で拒否させていただきます!




 ――と言うわけで皆様……。


 晴れがましい学園生活初日の、入園式が行われている最中ではございますが、わたくし、カーティス公爵家のヴィヴィアンは、お先真っ暗な予定が確定しているこの学園から、早々に転校させていただきます!!


 ヒロインさん、どうぞわたくしというスパイス抜きで、煌めく乙女ゲームの世界を思う存分堪能なさってくださいませ! 


 断罪の舞台が上がるその前に、わたくしにとっては危険な罠でいっぱいのこの場所から、さっさと逃げることに致しましょう!








 ◇ ◇ ◇








 ――あの、運命の日。


 入学式が始まり、新入生代表の挨拶が始まろうとする、まさにその瞬間……。


 壇上に上がった、とんでもなく整った顔立ちの第二王子を一目見て、ガンっと頭を殴られたような衝撃を受けた。


 そうして唐突にこの世界が、ある乙女ゲームと似通っていることに気付く。


 信じられないだろうがそれくらい、キラキラしいイケメンの甘いマスクは破壊力が凄まじかった。


 この国の第二王子殿下であるクリストファー様は、金髪碧眼のまさに王子様らしい王道の王子様で、一番人気の攻略対象で……。


 実物はもう蕩けそうなくらいの美形でしたので、周りのご令嬢方の目がハートになっていたのもよく分かります。世界が違っても、大半の少女達はイケメンに弱いものなのですね……。


 どよめきとピンクのオーラで包まれた会場で一人、わたくしは自らの悲惨な運命を思い出す。


 悪役令嬢という不吉な単語が脳内でリフレインし、その意味を正確に理解してしまった時……。



 ――思わず運命を呪いたくなった。



 おかげで第二王子の麗しいご尊顔など、遥か彼方へと吹っ飛んで行きましたともっ。


 真っ青になってしまったわたくしの思いは、ひとつだけ……。


 何としても生き延びてやる!


 という、強い思いだけでした。







 友人が乙女ゲームのファンで、一時期、毎日飽きることなくやっていたお気に入りのゲーム……。


 興味のない分野だったために詳しいゲーム名は忘れてしまった。


 シナリオとしては確か、貴族の子女が通う学園に平民出身だがとても才能のあるヒロインが、貴族の養女となり特待生として入園するところから始まっていたはず。


 やたらとファンシーで乙女チックなスチルを何回も見せられていたために、インパクトの大きさからそこだけはよく覚えていた。




 攻略対象のイケメン達とキャッキャウフフと戯れながら、恋に勉学にと過ごす、よくある王道的なストーリー。


 在学資格は十三歳から十七歳までと年齢制限はあるものの、その間ならいつ入学してもよく、一年以上在学すれば飛び級して卒業することも可能だ。

 入学から卒業まで、プレイ内容によっては最大で五年間になるという降り幅があることと、同学年で年齢がバラバラなところがまた、楽しめる要素だったらしい。




 ――その中で登場するライバルの悪役令嬢がわたくし、カーティス公爵家のヴィヴィアンである……。


 攻略対象の一人、宰相の息子の婚約者である悪役令嬢は、ヒロインと婚約者の距離が徐々に縮まり、仲良くなり過ぎるのを見てショックを受け、やがて怒りが爆発してしまう。


 そりゃあ、目の前であれだけ堂々とイチャコラされたら、キレてもいいんじゃないかなと思ったものだ。


 婚約者がいると分かってちょっかいをかける女と、それを嬉しそうに受け入れる自分の婚約者って、悪役令嬢的には最悪なのでは?



 普通に人間不信に陥るレベルですし、我慢できなくなって当然じゃないでしょうか?





 そして入学から卒業までの在学期間、ひたすらヒロイン憎しで排除に努めた結果、この悪役令嬢、見事に断罪され退場させられる。


 ――丁度、十六歳の誕生日を迎えたその日に……。


 もちろん、ヒロイン的には攻略対象と結ばれてハッピーエンド。


 それから二人は幸せに暮らしました……となってエンディングである。


 身分制度がある国が舞台で本来、たかが平民出身のヒロイン一人を苛めたくらいで、こんなに簡単に過激な処罰をされてしまうものなのだろうか?

 悪役令嬢とはいえ、彼女は王家に次ぐ地位にある公爵家の令嬢のはずでしょう?


 乙女ゲームのご都合主義だとしても、非現実的すぎる設定じゃないのって思いながらも、とりあえず聞き流していたのだけれど……。



 ――そう、このゲームは、ヒロインがどのルートを選んでも悪役令嬢であるヴィヴィアンがしゃしゃり出てくるのである。



 猪突猛進型の性格が災いして、自ら罠に嵌まりにいってしまうというか……最後は例外なく悲惨な末路を辿ってしまう。


 何故なら彼女は、平民出のヒロインそのものが気に食わない、という設定で苛めまくる役割を担っているからだ。




 攻略対象は全員上位貴族の子息で、当然ながら幼き頃より家同士で取り決められた婚約者がいる。

 その婚約者の令嬢達全員と幼友達でもある悪役令嬢は、次々とヒロインの逆ハーレムに収まる攻略対象達を見て黙っていられなくなり、何処にでも邪魔しに出てくるそうで、プレイしている友人には不評だった。


 詳しいストーリーを知っていればまた違った感想を持ったかもしれないが、当時は友人からの怒涛の解説にも適当に対応していたせいで、ヒロインのビッチな行動ばかりが目についてしまって感情移入出来ずにいた。


 うん、この悪役令嬢って普通に友達思いのいい子だよね? って思ってしまったのを覚えている……。





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