誕生会③
週明けの朝、僕がいつも通りに慌ただしく学校の準備を進めていると、視界を何か紙のようなもので遮られた。
手に取ると淡い緑地に大きく最寄り駅から学校の近くの駅までの……。
「何です?……定期?」
「御名答!毎日切符買うのも面倒でしょ?これでとりあえず3か月は使えるから。はい、これケースね。」
「ありがとうございます。」
影子さんのくれたケースに入れると、字のある部分だけが器用に顔をのぞかせている。
……何で矢絣模様なんだろう……確か母さんもこの模様が好きだったんだよね。
病院に顔出しても良かったら見せてみよう……。
「あ!そうそうあとさ!」
「何ですか?」
「今日から【完全に警護禁止令】発令したから!」
「は?何でですか「はい!しっぺ!!」は!?」
影子さんはむんずと僕の腕を掴んで人差し指と中指をしならせた。
ぺシーン!!と言う音とともに独特の痛みが走る。
「いった!!」
「これからは罰としてしっぺかデコピンね。」
「え……。嫌……だ。」
「あ~、2回目しっぺにはならなかったか。」
「もう……行ってきます!!」
僕が玄関を開けると、背後で『あー!!』とか叫んでいたから走って部屋を飛び出した。
バスに揺られて30分、学校の最寄に着くと住宅街の影から学校の避雷塔が見える。
ここからは今までの道と同じだから気楽でほっとした。
教室に着くと、クラスの視線が僕一点に集まった。
それもいつもの馬鹿にしたようなものではなく、どこか警戒したような目、軽蔑したような目が混ざる。
その目をしているのは、紛れもなくあの5人だ。
僕と目が合うと、5人は足早に僕を取り囲み、矢嶋が僕の肩を掴んで無理やり椅子に座らせた。直後に尻を数か所突き刺す痛みが走った。
チラッと足元を見るとズボンに血がにじんできていた。
やられた……ついに本当の暴力的ないじめが始まってしまった。
きっかけは何だったんだろう……?って考えるまでもない。一昨日の誕生会しか思い浮かばないから絶対それだよ。
……誕生日でも無かったけど。
「お前、俺たちのアレルギー何で知ってんだよ?」
「」
答えられるわけもない。
だって一昨日影子さんが口走った内容すら覚えていられない僕がメモも取らずに覚えられるわけない。返事ができずにいると、顔めがけて拳が降ってきた。椅子から転げ落ちようにも背後を抑え込まれて椅子から動けない。
尻は画鋲で刺されてしまってるし、これじゃ本当の拷問だ……。
「だんまり決めてんじゃねぇよ!!」
「返事しろよクズ!!」
「なめた態度取りやがって!!」
それから僕は返事をする間もほとんど与えられないまま、殴りつけられた。
抵抗もできないまま殴られ続けていると、彼らは満足したのか攻撃をやめた。
稲辺に前髪を掴まれて無理矢理上を向かされて、やっと目を開けると視界が腫れた頬で遮られてしまったのが分かった。
「おい、二度と俺らに盾突くんじゃねぇぞ?」
僕が声にならない声でわずかに返事すると、彼らは何もなかったかのように自身の席に着いた。
しばらくして教科の先生が来たけど、僕の顔を見て5人に確認をしてから鼻で笑い授業を始めた。
あぁ、さすがにつらい……僕は顔の腫れが引けるまで机に突っ伏しているしかなかった。
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