十五、預言
とりあえず、二人の処遇は「預言を聞いて決める」ことになった。
ロレンソの首を抱え、カサンドラを連れて船に向かう。
敗北したものの、反逆の機会を伺っている……という筋書きにすりゃあ、裏切ったことにはならない。
そう考えりゃ、賢い選択だ。
「……なんか……」
生首を抱えて歩く俺に向け、ジャックはためらいがちに口を開いた。
「すっげぇ似合うな」
「おい、どういう意味だ」
俺の反論に、ジャックはふいと視線を逸らす。
カサンドラはむっとしたらしく、「私の方が似合うであろう」とよく分からない張り合いを見せてくる。そんでもって、当の生首はなんでか照れ臭そうだ。
船に上がると、殿下が樽の陰に隠れて様子を伺っているのが見えた。
「……それで、どうするんですかズィルバー」
警戒するように二人を睨みつけ、隠れたまま一歩も動こうとしない。
「殿下はアリーのそばで見ていてください。……カサンドラ」
俺の声にカサンドラは頷き、甲板の中央へと進み出た。
ローブを取れば、長い赤髪が現れる。
炎がぐるりと円を描き、その中央でぽっかりと闇が口を開ける。
カサンドラはそこに手を突っ込み、灰のようなものを掴み取って辺りにばらまいた。
船上に落ちた灰が、文字を記す。読みにくくはあるが、どうにか読み取れるので、声に出してみる。
「……現大臣の治世長くは続かず……若き
おそらく、これがカサンドラの視た「凶兆」だろう。
カサンドラの手が、もう一掴み灰を握る。
浮かび上がった文字の上に被せるように、それを再びばらまいた。
「西より英雄来たれり」
灰が新たな文字を形作り、カサンドラは自らの声で「預言」を読み上げ始めた。
「彼の者は崖を飛び、海を駈けし者」
……崖、に……海……だと?
脳裏に、ある
「……トモモリ……よ、聞け」
たどたどしい発音で、カサンドラは間違いなく俺の「かつての名」を呼んだ。……正確には、灰で書かれた文章を読み上げただけだが。
「ヨシ、ツネ……? ヨシツネは、再び
「何……!?」
思わず声を上げた。
周りは「トモモリ? ヨシツネ? 名前か?」などとざわついている。
ジャックのみは「ヨシツネ……ズィルバーが言ってた奴か……?」とぼやいていた。
「
俺が訪ねると、カサンドラは額の汗を拭いつつこちらを向いた。
「私に聞かれても知らぬ。……なんだ、知り合いか?」
「……まあ、な……」
ああ、まさか、当世でも会いまみえることになるとはな。
……
「だ、大丈夫なのですか、ズィルバー。どうにも、顔色が……」
殿下がアリーの影に隠れたまま、声をかけてくる。
「……大丈夫です、殿下。……こうなりゃ余計に、負けるわけにはいきませんね……」
妙な因果だが、むしろ好都合。
ここで一門の
かかって来い義経。
次こそ、勝つのは俺だ。
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