俺が主人公に選ばれた件について

ガミル

プロローグ

 『おめでとう、周藤 慧太君。君はこの国の主人公に選ばれた』


  映像の向こう側にいる、ダンディズム溢れる髭のおっさんがニコニコ顔で理解不能なことを俺に告げる。主人公?なんだそりゃ。俺は異世界転生した覚えもハーレム生成能力を手に入れた覚えもないぞ。


 『おいおい。そんな顔をしないでくれたまえよ。これは中々栄誉あることなんだよ?』


  俺の困惑顔を予想していたかのように画面の向こうの男は喋り続ける。


 『知ってのとおり、この国は人材不足でね。出生率の低下も伴って由々しき問題となっている。そこで作られたのが主人公制度だ。この先この国を背負っていく若くて優秀な人材を増やしていくことが本制度の目的さ』


  なるほど。目的については理解できた。だけど、腑に落ちない。なおのこと、俺が選ばれた理由が分からない。言っちゃ悪いが、俺は自分がただの凡人であるとを誰よりの理解している。学校の成績は良くて中の上程度、中学校時代はそれなりに厳しい運動部に所属していたとはいえ、運動神経が極めて優れているわけではない。フィクションの中なら、その辺のモブAと同じ様なものだ。


  だからこそ疑問なんだよな。主人公に選ぶんならもっと適した人間がいるはずだ。例えば、某財閥の御曹司とかどうだ?確か俺と同じクラスだった気がするぞ。


「あの、ちょっと聞きたいことが――」


『さて、ここまでが概要だ。次に主人公の役職について説明していこう』


 これから質問をしようと口を開いた矢先、それに被せるようにおっさんが再び喋り始める。そりゃあ当たり前か。対面しているとはいえ、相手は映像だ。そもそも質問したところで回答は返ってこない。黙って耳を傾けることぐらいしか俺には出来ない。どちらにせよ同じだ。――だって、それしか出来ねぇし


 俺は視線を下に向ける。俺の足は分厚いロープで椅子にがっちりと縛り付けられていた。腕についても同様に背もたれの後ろで縛られて固定されている。


  そう、俺は気がつくと監禁されていたんだ。改めて思う。――ホワイ?どうしてこうなった?


  俺最近何か悪いことしたっけ? うーん、母ちゃんの秘蔵プリン盗み食いしたことぐらいしか覚えないなぁ。

  俺が走馬灯が駆け巡るが如く、直近の出来事について思い出していると


『さて、周藤 慧太君。君には明日から1年間主人公になってもらう。文字通り主人公だ。主人公らしく考え、主人公らしく振る舞い、主人公らしく行動する。どうだい簡単だろ?』


 朗らかな微笑みを振りまきながら、おっさんが話を続ける。今俺が置かれている状況とのあまりのアンマッチ具合に寒気すら覚える。大体、主人公らしくってなんだよ。知るかそんなもん。そんなことより俺の縄を解きやがれ。


 ようやく思考回路が今の状況に追いついてきた。そもそもその説明するのにここまですることないだろ。あれ、なんか冷静になったらだんだん腹立ってきたぞ。


 そして、俺の憤慨を知る由もないおっさんは、付け加えたように


 『――そうそう、言い忘れていた。主人公の役割を途中で放り投げたり、第三者に露見されるようなことがあれば、即極刑だから気を付けてね』


 耳を疑うような物騒なことを言い始めた。一瞬思考がショートする。うん?今なんて言った?極刑って言ったよね?え?じゃあなにバレたら死ぬってこと?何そのハイリスクノーリタン。良いこと一つもねぇじゃねぇか!


 『では健闘を祈るよ。ノブレス・オブリージュ。君が優れた主人公であらんことを』

 

 「え、ちょ、何だよそれ――ェッッッ!?」

 

 映像が途切れるのとほぼ同時に俺の悲痛な叫びが辺りに木霊する。そしてそれから俺の意識はブラックアウトした。


 


 



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