満ち欠ける世界を僕たちは

小粋一栞

第1話

 赤。

 目の前を、赤がちらつく。

 赤だけじゃない。紫、水色。

 最近の小学生は、カラフルだ。

 前を歩くランドセルが楽しそうに揺れ、時折予想外に跳ねる。


 人生ってこんなふうだ。

 自分とは色の違う他人で溢れかえる世界。

 当たり前みたいに並んで同じ道を進んでいるようで、ある日突然自分は独りなんだと明かされるような予想外が起こり、切り離される。

 そうやって突然みんなから切り離された私は、どうやって前に進めばいいんだろう。


「きゃははっ」


 屈託のない小学生の笑い声が遠い。やけに遠く感じる。

 それはきっと、私にだってあったはずの似たような思い出が、もう二度と戻ってこないものだとわかっているからだろう。


「じゃあ次、ミオンちゃんが問題出す番ね!」

「えーっとぉ、じゃあ朝は四足歩行、昼はニ足歩行、夜は三足歩行の動物はなぁーんだ?」



 ――ニンゲン。

 頭の中で即答して、私は片手に握った杖に目をおとした。

 じゃあ私は、夜を生きているんだ。

 17歳にして退化の夜。

 真っ暗な暗闇なんかはきっとこんなピーカン晴れよりは私に似合うだろう。


「あー!答えわかった!」


 ひょこんとテレポーテーションのように視界に飛び込んできた茶色のランドセル。

「ひっ」と声が上がりそうになった。


 ――四人いたんだ。


 私は心の中で呟く。

 左にいたからわからなかったと言ったらわかりがいいだろうか。


「答えは人間!生まれたばかりの朝はハイハイ赤ちゃんで四本足。昼は、大人になって二本足、で、夜は老人になって杖をつかった三本足!」


 ――老人。

 小学生たちの横並びの列から距離をとるように、歩く速度を緩める。


 かつ、かつ。杖が鳴る。

 私は、左側が見えない。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る