第四四四回 四が三つ揃った時に溶け込むの。


 ――それは夕陽輝く午後の四時四十四分。まさに、その時の出来事だった。



 奈々ななさんが、教室を訪ねてきた。その時はまだ午後でも、二時半とかそんな時間。これから少しばかりのホームルームが始まりそうな、ちょうどそんな時だ。


 ……だから、というわけではないけれど、


「何しに来たの? 私は何でもできるお姉ちゃんとは違うの」と、可奈かなは歓迎などしていない様子。……ただその前に、僕の前に来て僕の頬を触るなり「痛かったでしょ、本当にごめんね。千佳ちかちゃんに謝りたいって、お母さん言ってたの」と、言ったの。


 近くで見ると、やっぱり可奈に似ている。大人しくて優しそうな……長い髪に眼鏡がより清楚なイメージを深ませる。御年は二十歳と、可奈からは僅かに情報を頂いていた。


 それから、


「ごめんね、可奈。お母さんがあんなこと言ったのは、私が原因なの。……私がもう少し強かったら、あんなことにはならなかったの。学園を……転校することはなかった」

 と深々と、可奈の前で見せる悲しげな表情。


「SNS中傷……ホントに憎いよ。私だって頑張ったんだよ。だからハッキングも勉強したの。反撃できるように必死で……それでもダメなの? やっぱり、この学園で進学したいの。天文学もだけど、こんな素敵なお友達も……もう二度とないほど大切だから」


 可奈はポロポロと涙を零しながら、胸の内の栓まで外して、初めて見せた。


 ――言葉にできなかった、可奈の等身大の想い。

 普通の、中学三年生の女の子。僕らと何ら変わらない普通の女の子だった。


 そっと、ソフトに包み込むように、抱く……妹をお姉さんが。そんな光景が目の当たりに、瞳に映るの、僕だけではなく梨花りかにも、今ここにいるクラスの友達にも。


 僕も、もらい泣き……って、さっきから泣いていたけれど……


「可奈、いいお友達を持ったね。私にはできなかったこと、可奈はできたじゃない。いつだって私は可奈の味方だからね」と、奈々さんは温かく言葉でも、可奈を包んだの。



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