第百六十五回 サインはヴィクトリー。


 ――それは、試合終了の合図。


 神崎かんざきさんは、二回戦まで勝ち残ったから、今この場で僕と対戦している。


 今更だけど、思えば……そうなの。僕も二回戦まで勝ち残らなかったら、今こうして神崎さんを……ううん、美千留みちるを目の当たりにしていない。


 もちろん、僕一人の力ではない。


 美千留もまた同様に、チーム仲間の個性豊かな力があったからこそ実現……会場の真ん中で、対峙という単語よりも、もっと温かみのある単語……


 今ここで言葉にはしないけれど。



 ソーシャルディスタンスを維持した試合用のブース……というべきなのだろうか、背中合わせとなっているPS4・5、お互いの席から立ち、ほぼ隣接のそこから少し離れた所で向かい合わせ。……先刻までの、裸なる精神……そのお互いが溶け込むシーンが、脳内にイメージとして残っていて……ちょっと恥ずかしい。


「……星野ほしの、やるじゃん」


「……君だって、美千留」……下の名前で、言っちゃった。


「じゃあ、私も千佳ちか……あなたと試合できてホント良かった。……ありがと」


「僕も。楽しかった。またやろうね」


 すると美千留は、僕が知る限り今までに見たこともない晴れやかな笑顔で……こんな顔できるんだって思うくらい、パッと、女の僕から見ても素敵で、ドキッとするほどで、


 ……って、


「ダメダメ、私があなたとやるのは試合なんだから。

 そんな顔しないで、私たちの分も頑張ってよ。来年はチャンピオンになったあなたたちに、私たちが挑むんだから。明日も明後日も、あなたたちを応援してるから」それでチョイチョイと耳元で……僕は耳元で囁かれるのは弱いのだけれど「それからね、太郎君のこと、しっかり捕まえとくのよ。恋は盲目、あなたのことしか見えてないから」……と。



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