第六十二回 あの日から一年の時を経て、……遂に時来たる。


 ――午前の九時!

 その距離は近い!



 僕のお家は、その待ち合わせ場所のドラッグストアの、すぐ裏手に位置している。

 梨花りかと二人、足取りも軽く。


 ……されど、本来なら人との接触を避けなければならないけど、大目に見てあげてほしい。僕にとっては必要な、――マジで重要な再会なのだ。


 ……梨花も公認。


 お母さんだって……「千佳ちか、頑張るのよ」と、言ってくれた。この上なく嬉しくて笑ってられなくなって……「千佳、笑顔笑顔スマイルスマイル!」と、梨花は促した。


 ――うん! と、涙と笑顔のミックス。


 と、そんな出来事がつい先刻、あったばかり。そして視界に、

 このドラッグストアの出入口、……その付近。


 赤いチャンピオン帽子に、黒縁の眼鏡……ポロシャツ、白のツーラインのジャージも黒くて、マスクまでもが黒色。――が、僕らを見ているようで……見ている、明らかにそういう素振りで、窺っている。怪しい、怪しいまでに怪しすぎる。足が向いてしまう。


 そして何故か、


 何故か歩み寄ってしまう。何故だろう?


 磁力……そう、まるで磁石のように。


 不思議だけどそんな感覚。僕の目から入る情報、そして脳への道程を経ても、まだその男が『霧島きりしま太郎たろう君』と認識したわけではないのに、もしそうなら一年前と似ても似つかないスタイルなのに……華奢というのか、スマートというのか? B&Bブラックアンドブラックの眼鏡とマスクが隔ても、僕の女の勘としては幼いのだけど、初恋の、その恋心と同じような鼓動が、


 再び、――再び、この再会という名のもとに蘇る。


 そして「千佳、その子は?」と、その男……その男の子は、そう僕に問うのだ。



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