第12話 ありえるはずがない
(
上品な水色のドレスを
二人は繁や弥生より、一足早くこの花畑から目覚め、タケシがその場を去った後に無数の怪物と
「超べリバー。コイツら、どんだけいんのよ」
「舞姫、
本当、頭にカチンとくるわ。
弥生たんと咲ちゃんの三人で誤って変な穴から落ちて目が覚めたら、弥生たんだけ行方不明だし……。
……この前、アニメイドのメイド喫茶の常連客になり、そこからの紹介による隠し部屋で、お遊び半分で能力の契約をさせてもらったギンギラギンな灰色姿の少年がいて、
『今から咲と二人っきりでカップルデートしましょ♪』なんて、きしょいったらありゃしない。
アタイは百合でもなく、同性には興味ないつーの。
その後、言う通りに足を運べば、大量の怪物の軍勢よ。
あの坊主はアタイらに何をやらせたいのやら。
『ピイィ!』
「今だ! 水よ。アイツを捕らえなっ!」
ヤツが飛びつこうとした隙を狙い、アタイの声とともに上空からの水の弓矢のようなヤリがヤツを襲う。
アタイは、現実では射程距離に入れば、どんな人とも友好的になる母の源による海のような穏やかな心を持ち、この世界では母性の水を自由に操れる能力だ。
これを使ってさっきから大量のゼリー状な怪物の青色なスライムゼリーなんちゃら(咲ちゃん
ざっと見ただけで100匹は超えてる。
確か、この前の現国の授業で習ったな。
こりゃ、多勢に無勢と言ったっけ。
あかん、このままではアタイの方のちからが持たんね。
ちなみにアタイのこのイカした姿はあの坊主の話では、母性愛をくすぐる水の精霊『ウンディーネ』をイメージとしたパーティードレスの格好らしいけど、その辺に関しては第3者なアンタの妄想に任せるわ。
『ピイィ!』
「雷、あの怪物たちを貫きなさいっ!」
そこへ稲光が発生して、スライムゼリーたちの体が黒こげとなるとかヤルぅ。
これは黄色の薄っぺらなビキニがなければ、お猿さんのような裸同然に近い咲ちゃんの能力だわ。
「……舞姫、咲もいることを忘れないで下さい」
いや、咲ちゃん、めっさカッコええわ。
アタイが男だったらガチで惚れて、相撲取りのようにどすこい、どすこいと押し倒してるわよ。
「サンクス。死ぬときは一緒だわね」
「もう、縁起でもないことを言わないで下さい」
咲ちゃんが雷をムチのようにしならせ、スライムゼリーたちを攻撃するのに感激するアタイ。
ああ、こん
一匹ずつ仕留めるのではなく、複数に標準を広げてやっつけるやっつけ方。
礼儀正しいマニュアルにはない、そんな粗野でランボーな使い方をするのね。
端から見ていて超、きもちい~♪
「……舞姫。さっきから何をボーとしているのですか。
……いいですか。咲にマル秘作戦があります」
「……あっ、ごめん~。
……ところで聞こえんやった。話ってなんやろ?
ぜひ、聞かせてもらうわ」
アタイは咲ちゃんの言葉に興味津々。
まさに初夜を迎える新婚夫婦みたいなカンジ。
体が火照ってゾクゾクするわ。
あれ、言葉の使い方違うかな。
寒気が走ってゾクゾクかいな。
……いや、それやとただの風邪やし。
あー、慣用句や喩えやら日本人は色んな比喩表現が多すぎ。
何かもう日本人辞めたいわ、今さらやけど、すんごい日本語ムズいわね。
「とりあえず、舞姫は水の魔法で広範囲に攻撃して下さい。咲が後からフォローしますから」
「オッケー!
……水よ。ヤツらを流せっ!」
アタイは上空から大量の水を発生させてからビックウェーブにして、スライムゼリーの集団を覆う。
ちと、アタイにはこの巨大な波は高度すぎる技らしいわ。
魔法力の消耗が超パネェー。
おまけに頭もクラクラするわよ。
「舞姫、ありがとうです。
……雷よ、あの大波に乗りなさいっ!」
『ピイィィィー!?』
瞬く
なるほど水を通して雷で感電か。
濡れた手でコンセントに触れないで下さいみたいなカンジ。
アタイらの作戦勝ちだわ。
****
こうして、花畑から綺麗さっぱりスライムゼリーたちがいなくなった。
改めてヤツラがいなくなり、この花畑の広大さを知るアタイたち。
「そう、この花畑、超広いんだわ」
「何かおかしいですね」
「あれ、このボロ看板さっきも通ったんじゃね?」
それは花畑の移動距離を示した看板だったが、先ほども見かけた覚えがある。
雨で傷んだ木の看板といい、消えかけた黒い文字といい、しかも残り1キロの表示といい、まったく同じ看板だわ……。
もしかしてアタイら、ここで迷ってる?
しかし、普通はお馴染みの展開として迷うのなら森林や迷宮とかの設定のはず。
あのガキんちょめ、こんな場所に生意気な迷える子羊的な空間を作るとは。
花畑の迷宮とか洒落にならんわ。
アタイは周りを見渡すが、どこを見ても同じ花の塊。
ガチでどうなってんのか分からないわ。
ほんま、しょーもないわー。
「舞姫、諦めないで下さい。出口はどこかにあります」
「咲ちゃん、気い遣ってくれてありがたいけど、これは絶望的やわ」
咲ちゃんの気持ちはありがたいけど、このだだっ広い花畑のどこに出口があるのやら。
考えただけで頭痛い。
気分は超べリバー。
「舞姫、もしかするとですね」
アタイが考えのし過ぎの頭痛に頭をしかめている時に咲ちゃんが話しかけてくる。
まったくよけいに頭痛いわ。
ウザいったらありゃしない。
「……なんやね?」
「……実はここにいるモンスターたちにヒントがあるかも知れません」
不機嫌なアタイなんかお構いもせず、咲ちゃんが身ぶり手振りで説明しようとする。
「……モンスターたちは、この花畑へと歩いてやって来ましたよね。その先に出入り口があるかも知れません」
「それ、ナイス。イカすアイデアやわ!」
「……あっ、ありがとうです……」
アタイは飛び跳ねながら咲ちゃんの両手をワシッと握る。
柄にもなく、いつもクールな咲ちゃんは照れているようだわ。
例え、そのそぶりを見せなくても、お姉さんにはお見通しなのよ。
「……舞姫、そろそろ来ますよ」
咲ちゃんが気配を察して対象相手に向き直る。
砂煙に紛れてぞろぞろと現れる怪物の影。
「咲が
「しゃーないわね。健気な美少女の頼みとなれば断れんわ」
アタイは咲ちゃんがいる場所から前方に駈ける。
花畑の野を越えていく度に正体を明かす怪物たちはあのスライムゼリーたちではなかった。
30センチくらいの前屈みな姿勢で、肌は赤色で目つきはナイフのように鋭い。
手には茶色な木の棍棒を持ち、ギザギザな口の牙が怪しく輝いている。
(……あれは、確か……)
アタイは、ついこの前までスマホRPGゲームで遊んでいた事を思い出した。
あのチビな背丈に場違いなどう猛な気性の荒さ、間違いない、アイツらはゴブリンだわさ。
いくら雑魚とはいえ、先程までのスライムゼリーとは違う。
アイツらにはそれなりの知能と行動範囲が広がった手足が生えている。
それに数が半端じゃない。
100匹はくだらないわね。
下手をすれば戦闘慣れした咲ちゃんでもやられる可能性だってあるわ。
「咲ちゃん、なるべく急ぐさかい、それまで何とか耐えてな」
咲ちゃんからの答えは返ってこんけど、アタイは咲ちゃんの腕前を信じてゴブリンの行列から離れて
****
(
「雷よ、あのモンスター達を貫いて下さいっ!」
『ギイィィィ!?』
わたしは咲。
端から見たら天性の美少女と呼ばれて君臨していたお姫様の姿だが、今は異空間に迷い込み、現実では見知らぬ怪物と闘っている。
また、わたしは普段は親によくしつけられて大人しい相貌らしいけど、喧嘩をすると猿のようにうるさく迫る避雷針のような性格を持っているためか、お笑い系な雷様のような? キテレツな格好をしている。
それにしても怪物討伐とはいえ、動いていると胸とかがスカスカで気持ちが悪い。
幼児体型に、このようなスタイルが強調させる水着を着用させて、あの宇宙人はどういう性癖をしているのか……。
おまけに着替えようにも他の服がないのももどかしい……。
「……本当に数が多いですね。これではキリがないですね。
……雷よっ!」
『ギイィィィ!?』
一匹一匹と確実に消えているのに次から次へとやって来るモンスター。
魔法を連続使用する肉体的疲労感もあるが、わたしは精神的にも参っていた。
ちなみに、わたしの魔法は現実では閉じ込められた友人を助ける限定で、鍵の掛かった扉を開けれるピッキングの能力で、この世界では鍵穴にぴったりな鍵を差し入れそうな雷の能力を持っている。
まあ、この能力はこの前、舞姫とアニメイドであの灰色の少年と冗談半分で契約した時に知ったのだが、まさか本当に魔法が使える世界に来るとは……。
「それにしても何匹いるのでしょうか。
……近寄らないで下さい。
雷っ!」
『ギイィィィ!?』
しかし、いくら強力な雷撃とはいえ、
わたしの魔法は接近戦には持ち込めない。
下手をするとモンスターの体を連鎖して、わたし自身も感電してダメージを負ってしまうからだ。
強力な反面、使いどころが難しいのだ。
「しょうがないですね。鬼さんこちらです~♪」
わたしは身をひるがえし、野山を登る。
その先には高くそびえた杉の木が伸びていた。
「ええーい!!」
わたしはタンタンと忍びのように杉の木をかけ登り、てっぺんの枝の上に立つ。
下には沢山のゴブリンたちがごちそうの餌に群がるアリのようにウジャウジャいる。
「今だ! ……雷よっ、
怪物達に鉄槌を与えなさいっ!」
わたしの両手から雷が生まれ、上空へと稲妻が飛翔する。
すると、上空で円を描いていた雷が黄金の巨大なハンマーの姿になり、その重厚な重みで地上のゴブリンを一気に潰しにかかる。
『ギイィィィ!? ギイィィィ!?』
沢山のゴブリン達が一斉に潰れて消えてゆく。
これは、あの梱包材のプチプチを潰すように快感だ。
「よっしゃあああっ!!」
その様子を見て、わたしは木から飛び降り、柄にもない大声を発しながら勝利のポーズをしていた。
どうやらゴブリンは全滅したらしい。
わたしだって決める時は決める。
わたしながら、よくやったと誉めてあげたい。
『ギイィィィ!』
「……しまった、まだ生き残りがいましたか!?」
油断した、背後に一匹だけいた。
まだ、モンスターは全滅していなかったのだ。
ゴブリンの降り下ろされる棍棒に身を屈め、わたしはやられると直感した。
『ギイィィィ!?』
そこへ目が
この光の魔法は舞姫ではない。
わたしたち以外にも先客がいるのだろうか?
その魔法を発動した人影らしきものがすぐに去っていく。
ここからだと、影となり性別は分からないが、どこかで見覚えのある長い髪が風で揺らいでいる気がした……。
****
「咲ちゃん、無事? 平気かいな?」
遠くから馴染みのある舞姫の声が響いてくる。
「……あっ、そこにおったんやね。
出口が分かったけん、いくよ♪」
わたしのこの複雑な心境をものともせずに、普段と全く変わらない舞姫がこっちこっちと手招きしていた。
****
「……舞姫」
「なんやね?」
「……いや、そんなわけないですね……」
「はあ? パネェ変な咲ちゃんだわ」
舞姫にからかわれてもわたしは気にもせず、出口に進みながら頭の中でよきもしない思考を繰り返していた。
そう、いくら異世界でも、それはありえるはずがないのだと……。
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