第32話 待ち時間での出来事
駆け付けたケストナーが息を整える間もなく口を開いた。
「ロルカさん、若い護衛を困らせるのはやめて頂けませんか?」
「ケストナー、お前が責任者か」
ロルカは鼻で笑うと、捕らえた盗賊と話がしたいと短く伝えた。
「通例はご存じでしょう? 無闇に――」
「理由ならある」
ロルカは強い口調でそう言ってケストナーの話を遮ると、
「ワシのところで働いている男の双子の弟らしきヤツが捕らえられている、と聞いたのでそれを確かめるだけだ」
面倒くさそうに説明した。
「従業員の身内ですか……」
「もしそうなら、店に戻ってすぐに知らせてやりたいと思っただけだ」
意外と真っ当な理由に図南たちも驚いて顔を見合わせる。
仮に盗賊の一人が双子の弟だったとして、それを双子の兄に知らせたところでどうなるものでもないことは分かっていた。
それでも、肉親の情を持ちだされては弱い。
ケストナーが渋々と承諾する。
「そう言う理由なら、まあ。今回は特例ですからね」
「最初からそう言えばいいんだ」
ロルカはすれ違いざまにアリシアにわざとぶつかって捕らえてある盗賊たちの方へと歩を進めた。
「お騒がせしました」
ケストナーが図南と紗良に頭を下げる。
「気にしないでください。こちらこそ何のお役にも立てなかったようでお恥ずかしいです」
「アリシアさん、大丈夫ですか?」
図南とケストナーが二言三言、言葉を交わす間に紗良がアリシアに駆け寄った。
「サラ様、ありがとうございます。ちょっと気持ち悪かっただけです」
ロルカの
(若い女性が中年に厳しいのは異世界も変わらないんだな……)
そんなことを思いながらも、ケストナーに聞く。
「あのロルカという奴隷商人ですが、カッセル市の有力者か何かなんですか?」
「有力者ではあります」
その口調と表情から良く思っていないのは確かだった。
「権力者とつながりがあるとか?」
図南の質問に顔を強ばらせる。
「そんなところです」
詳しい話を聞くのは難しそうだと図南が諦めると、
「念のためロルカさんの側にいるようにします」
そう口にしたケストナーがすれ違いざまにささやいた。
「教会の上層部とつながりを持っているという噂があります」
思わず振り向いた図南に紗良声を掛けた。
「こちらの女性は冒険者をしているアリシアさんです。隊商の方々や冒険者の皆さんを治療する際にニーナちゃんと一緒に手伝ってくれました」
次いで、アリシアを振り返ると図南を手で示して言う。
「こちらが図南・宵闇。あたしの幼馴染です」
「アリシア・ゼーベックです。サラ様には命を救われました。もちろん、盗賊を撃破したトナン様にも、です」
紗良に紹介されたアリシアが恐縮した様子で小さくお辞儀をする。
アリシアは本来このカッセル市の冒険者であり、普段は単独で仕事を受けているのだという。今回の護衛は人数合わせの助っ人であると説明した。
「盗賊って割と出没するんですか?」
と図南。
「この街道――、カッセル街道って呼ばれているんですけど、深い森が近いせいもあって魔物はそれなりに出没しますが、盗賊は滅多にでないんですよ。今回の盗賊もどこか他の地域から流れてきたんだと思います」
「盗賊に謎の襲撃者とは運がなかったな」
「いえ、幸運でした。トナン様やサラ様、タクミが居たことでどれほど助かったことか」
「俺たちはこの国の出身じゃなから何かと不慣れな点が多いと思う。アリシアさんには今後も拓光を助けてくれるとありがたいです」
図南とアリシアの視線が拓光に向けられた。
「勿論です。拓光さんには武器や防具の修理をして頂きましたし、恩返しをしないとなりませんから」
アリシアが屈託のない笑みを浮かべた。
「アリシアさん、外出ができるようになったら都市のなかを案内してもらってもいいですか?」
と紗良。
「勿論です。歓迎しますよ」
図南と紗良、アリシアの三人がたわいのない雑談を続ける側で、拓光はまとわりつくニーナを微笑ましそうに相手していた。
そんな拓光とニーナを見た図南は、『姫プレイなんてしないで、あのままニーナちゃんたちと楽しく過ごせばいいのに』、と思うのであった。
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