第28話 それぞれの道(1)
神聖教会と隊商との合同の馬車隊が、カッセル市まであと数時間のところで昼食のための休息をしていた。
皆から少し離れたところでイノシシの肉にかぶり付く、図南と紗良、拓光の三人。
「――――俺と紗良はフューラー大司教の遠縁の親戚と言うことで通すことになる」
フューラー大司教が自身の補佐役として神聖魔法が使える血縁者を呼び寄せた。それが図南と紗良である、という設定を語った。
「OK。口裏を合わせるようにするよ」
「すまない、助かる」
「不知火さんにはお願いばかりして、本当に申し訳ありません」
図南は自分たちの地位や役職についても説明をした。
「――――あくまでも仮契約と言う前提だが、紗良は三級神官として司教の職に就く。俺も紗良と同じく三級神官だが、司教と神聖騎士団を兼任することになった」
神聖教会における三級神官が上位の地位にあり、職務は神聖魔法を使った治療や文字の読み書きを教える小学校の教師のようなことをするのだと説明した。
そして、神聖騎士団は都市や周辺地域の治安を維持する組織であり、日本における警察、検事、裁判所を合わせたような権限を持った組織だと告げた。
「それってヤバくね?」
「俺もそう思うよ」
「権限が集中し過ぎてますよね」
拓光に図南と紗良が同意する。
「俺の理解が間違ってなければ、図南はその権限が集中した組織の実務部隊の
「形式上だけど、そうなるな」
「よくOKしたな。俺なら怖くて逃げだしてるところだ」
「お前の感覚は正しいと思うよ」
図南自身、悩んだ末の決断なのだと言い切った。
承諾した理由が紗良を守るために必要だと判断したから、などとは口が裂けても言えない。
「まあ、お前が納得しているならそれでいいんだ」
「ここで一つ提案がある」
「助祭以上の中級神官になるには神聖魔法が使える必要があるが、下級神官で構わないなら神聖教会に入ることができる」
実際に多くの下級神官やそれ以前の見習い神官の方が人数も多い。
黙って聞いている拓光に、図南は紗良に話を続ける。
「もう一つ、神聖騎士団なら神聖魔法が使えなくても助祭になることが可能だ。必要なのは治安を守るための力と意思」
図南の視線を拓光が真っすぐに見返して言う。
「俺を神聖騎士団に誘っているのか?」
「無理にとは言わない。俺を助けてもらえると嬉しい」
図南の言葉は本音だった。
同時に、神聖教会に居場所を作ることが、拓光にとって良かれと思っての提案でもある。
「事前に何の相談もせずに色々なことを決めてしまったのは申し訳なく思います。今回の提案も勝手なことを言っているのを十分に理解しています」
神妙な面持ちの図南と紗良に拓光が笑顔で応じる。
「それを聞いて俺も安心したよ」
「じゃあ!」
だが、拓光からは期待した答えは返ってこなかった。
「うーん。実はさ、俺も色々と勝手に決めちゃってんだ、これが――――」
テレジア、ニーナ母娘としばらく行動を共にする約束をしてしまったことを告げる。カッセル市では先に到着しているニーナの父が店を開店したばかりだった。
立ち上げの間、その店を手伝う約束をしているのだと言う。
「――――それに、俺のスキルは生産職だからさ」
「分かった」
図南と拓光が同時に口元を綻ばせた。
「では、次のお話に移りましょう」
紗良が切り出した。
「ルードヴィッヒのおじいちゃんが、不知火さんの身元保証人を引き受けてくれました。身分証明証も発行してくれます。錬金術ギルドに在籍して、そちらから身分証明書を発行してもらう方がいいのでしたら、それも可能だと聞いています」
「それは助かるよ。改めてお礼を言う。ありがとう」
「バカ、友だちだろ。それくらいは当たり前だ。それに、俺と紗良はそれなりの地位になるみたいだから、その後も色々と手助けできる。何でも相談してくれ」
「特に図南はカッセル神殿の神聖騎士団団長よりも階級が上になりますから、あたし以上に便宜が図れるはずです」
自分よりも図南の方が拓光も頼み易いだろう、と紗良が図南の言葉を補足した。
「実はさ、カッセル市に着いたら美女に変身して、別人の振りをして生活をしようと思っていたんだ」
話の展開に図南と紗良がポカンとする。
「……別人の振り?」
「女性になるんですか……」
かろうじて図南と紗良がそれだけ返すと、拓光が怪しげな笑みを浮かべて必要もないのに声をひそめた。
「リアル姫プレイだ」
「マジか」
図南も釣られて声をひそめる。
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あとがき
□□□□□□□□□□□□□□□ 青山 有
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