第16話・キャンプ前日

東城風とうじょうふうは、算学数さんがくすうの住むアパートに来ていた。

「お邪魔しま……ゴミ……」

風は算学の部屋のドアを開けようとするが、開ける途中で、風の視界にパンパンのゴミ袋が見えてしまった。

「その……算学君?」

中を伺うが、算学の姿は無く、返事も返ってこない。

「いないの?」

風が取り敢えず、帰ろうとした矢先、

「何勝手に他人の家覗いている」

「うぎゃあぅぅ!?」

「マナーがなってないな」

算学は何時ものように冷たい口調で、コンビニ袋を手にぶら下げていた。




二人は取り敢えず、算学の部屋にて腰を落としていた。算学はコンビニで買ってきたホットスナックを食べた。

「言っとくけどお前の分はねぇぞ」

「要らないから」

が、風は少し期待していた為、視線をズラした。

「で、何だ?」

算学はホットスナックを食べ終え、ダルそうに聞いた。

「明日の事なんだけど」

「明日? 明日何かあったか?」

「明日はキャンプでしょ!」

「キャンプ? 何で急に」

この日は八月八日で豊海瑠璃とようみるりが企画した、キャンプに行く日の前日だったが、算学はスッカリ忘れていた。

「何で、忘れるのよ!」

「人は忘れる生き物だ」

「そうですか。そうですね。はい、はい」

風が適当に返答すると、算学は予想外の返答だったらしく、目を丸くした。

「どうしたの? 目を丸くして?」

風はこの、たまに見せる算学の弱味が好きになっていた。


「……話を続けろ」

算学は何時ものように冷たい口調だが、顔を赤くして焦ってる様子だった。

「はいはい」

「はいは一回」

「……色々明日の詳細を話しとかないとと思って」

二人はお互い、連絡先を知らず、風の目の前で算学がスマホをいじってる様子を見た事が無かった。

「まぁ、スマホを俺持ってないからなぁ。だからわざわざ来たわけか」

「そう。まさか本当にスマホを持ってないとは」

「糸電話ならあるけど……」

算学が指を刺した先には確かに糸電話が置かれていた。

「糸電話って……」


「話が進まない。進めろ」

「(いや、お前が変な事言うからだろ)」

心の声の後、風は話を戻した。

「神成キャンプ場でキャンプするのね。集合は朝十時ね」

「現地か? それに朝早いだろ」

「まぁ、私達は瑠璃のお母さんが連れて行ってくれるって」

「その口調だと、かなり来るのか?」


風は持ってきていたカバンのポケットより、一つの紙を取りだした。

「これが、参加者。それにシュケジュール」

風は算学にそれを見せる。

「お前、俺、豊海と豊海の友達とかか? にしては人多くないか?」

参加者は風、算学、瑠璃、三毛弥生みけやよい西尾染杏にしおそあん藤谷航也ふじたにこうやの計六人だった。

「六人は少ない方でしょ? まさか、人見知り? 人多いの苦手?」

風が悪意を込めて算学に尋ねた。


「は? 何言ってんだお前?」

「えっ?」

風は予想外の返答に面食らった。

「俺はそんな闇の住人か?」

「闇の住人って……」

「……で、朝十時は無理だ」

「いや、むしろ遅い時間じゃない?」

その返答に算学は渋々了解した様子だった。参加者が書かれたところの下の方に算学は目を通した。その時、算学の様子が明らかに可笑しくなった。


「おい、お前……」

算数は立ち上がり、算学の手がプルプル震えている。

「えっ? どうしたの? また不満?」

「そうじゃない。……俺達泊まるのか?」

算学の視線の先はスケジュールのところで、明日午後十時に就寝で二日目に続くと書かれていた。

「そうか、言ってなかったね。二日間だよ。ごめん、言ってなくて」

「そうじゃない」

算学が気にしていた事はそこでは無かった。

「一緒に寝るのか?」

「は?」


「は?」

「は?」

「はっ?」

「はっ?」

「えっ?」

「えっ?」

「はぁぁぁ?」

「えぇぇぇ?」

「一緒に寝るのか?」

「だから、何言ってるの?」

「だからその……お前と俺が一緒に寝るのか?」


「寝る訳ないじゃない。男女別々でしょ。テント二つあるし」

今度は風が冷たい口調で話した。

「……」

「えっ? どうした? 固まって?」

算学は固まったまま、その場に倒れた。




「お姉ちゃん! どっちが良いと思う?」

風は妹の東城柚とうじょうゆずと明日の準備をしていた。

「こっちが良いんじゃない?」

「えっ? こっち? こっちでしょ?」

「決まってるのね……」

「二人とも、明日の準備は途中で止めて、ご飯にしなさい」

風の母により、風達は明日の準備を止めて、夕飯にする事にした。




「明日か……」

染杏はワクワクした気持ちと緊張した気持ちと不安な気持ちと色々だった。

「こんなの始めてだから……」

そんな事を考えていると中々眠れずにいた。すると、急にスマホの通知音が鳴る。

「小倉さん……」

それは小倉真衣おぐらまいからだった。

「明日、私の家に来て? ”友達”として……」

真依からのメールを読み上げ、少し悩んだが、染杏は決心した。

「もお、小倉さん……小倉とは関わらない」

そして、染杏は眠りについた。




「……お母さん。俺、どうしたらいいのかな? 教えてよ」

算学は棚に閉まっていた一つの写真を取りだした。その写真には幼い算学と母の算学理恵さんがくりえが写っていた。

「……俺、アイツと結ばれていいと思う? 俺は一人であるべき?」

そう写真に算学は言葉を掛けていた。

「明日俺、キャンプに誘われた。行くべきか。行かないべきか」


「気になるなら、言ってみればいいのでは?」

算学が知らない内に算学の部屋に

桜木詩画薇さくらぎしえらがいた。

「誰だ!?」

「いや、忘れて下さい。では」

「忘れてって……えぇぇぇ!?」

詩画薇はそう言うと、すぐさま、算学の部屋を後にした。

「何なんだアイツ? ……でも、そうだな」

算学が再び写真を見ると、母の理絵子が笑ってる姿が自分の背中を押している感じがした。



「お母さん。行ってきます」

弥生は仏壇の前に手を合わせ、挨拶を済ませた。


「行くよぉ! 弥生!」

「分かったから、急かさないで」

風は弥生の家まで瑠璃の母の車で来ていた。

二人は瑠璃の母の車に乗り込み、キャンプ場へ向かった。

「本当に来るなんてね」

「お前が言ったからな」

車の中には既に、何時もの算学が乗り込んでいた。

「あ~眠い」

「(何時も何時に起きてるんだよ……)」

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