第46夜  赤い池

 ーー楓は、螢火商店街にある

【フェアリー】と言うアロマ専門店にいた。


 ここには……“霊が視える女性”がいる。


 この店の店主で名前は……三村晶みむらあき“アキ”と呼ばれている。二十六歳。


 黒のヘアバンドから緩く編んだ金と茶の混じった髪。おしゃれドレッドヘアーが印象的だ。


 堀りの深い綺麗な顔立ちをした女性だ。

 長い睫毛がぱっちり。

 ヘーゼルの瞳はカラコン。


「新情報あるよ。」


 ターコイズのバングルブレスレットをつけたその腕を、腰元につける。


 店にいる楓にホットミルクティーを差し出した。


 カジュアルなパンツは今日は、白と黒の柄いり。ストリート系のファッションが多い女性だ。


 店内はアロマオイルやアロマキャンドル。

 アロマランプにお香。


 フレグランスな香り漂うウッドデッキ基調のお店。


 少し怪しめなタペストリーが、壁に飾ってあるがアキの趣味。


 どーも。と、白いマグカップを受け取る楓。


 ウッドデッキ調の丸いテーブル。

背もたれつきのチェアに座りながらアキを見上げる。


「え? なになに? どんな?」


 その蒼い眼は期待に揺らめく。


「赤い池。って知ってる?」


 白いマグカップを持つ手はネイルが施されている。耳にも大きなリングの、ピアス。


 アロマショップの店員とは思えない。


「赤い池? 知らね。」


 アキは……楓が鬼と言う事を知っている。

葉霧をおんぶして屋根を飛びながら、運んでる所を目撃されていたのだ。


 楓はそれをこの前……知ったばかり。

そのお陰で、商店街のあやかしも視える彼女と知り合った。今は、こうして“情報屋”みたいになっている。


【オカルト関係】のブログをやっているらしい。


仙人乃池せんにんのいけって所なんだけどさ。暗くなるとその池の水が真っ赤になるんだって。まるで血の池みたいに。」


 アキは珈琲の入ったカップを口につけた。


「は? それもーカンペキ……オカルトじゃん! 違うんだよ。オレが言ってんのは。」


 楓はため息つく。


 アキはカップをテーブルに置く。

 楓の前に座っている。


「わかってるわよ。あやかし情報でしょ?」


 アキは頬杖つく。


 うんうん! と、頷く楓を見ると笑う。


「あやかしセンサーないの?」

「あのな! オレは○○郎じゃねぇんだよ!」


 と言う事があった頃。


 ✣


 ーーその噂は……葉霧の通う学園でも広まっていた。


【私立各務学園高校】


 新宿の都心部から外れた所にある淡雪街あわゆきまち

 その高台に、その学園はあるーー。


 街を見下ろす様に聳える白い校舎。

広大な敷地には、緑が多くグラウンド設備なとも充実している。


 毎日……遅くまでグラウンドからは生徒達の声が響く。


 本館と別館のある校舎。

演劇部専用の舞台ホールもある。

部活動に力を入れているから、施設は整っている。


 そんなーー本館の4階。

 葉霧たち二年生の教室はある。


 基本……男子も女子も蒼が少し入った明るめの紺系色のブレザーが制服だ。

白いワイシャツと紺か黒のネクタイをする。

ブルーとグレーのチェック柄のズボン。

女子はプリーツスカート。


 今は……六月だ。

ブレザーではなく薄手のカーディガンやニット。それらを着ている。

特に……色は決まっていない。


 葉霧も今日はネイビーのニットを着ていた。


「葉霧くん。」


 休み時間になると女子生徒達が、葉霧の席に集まってきた。


 教科書を片していた葉霧の手は止まる。

 さらっとした赤み掛かった茶髪。

 少し長めの前髪から覗く茶系の眼。

❨通常時❩


「ねぇ? 今日の放課後……“赤池”行くんだけど行かない?」


 女子生徒達からのそのお誘いに、葉霧はきょとん。とした。


 クラスの女子達だ。

 三人はいつも仲が良く……一緒にいるのを見掛ける。


(ああ……コレは……“オカルト系”だ。)


 “噂好き”な、三人なのは知っている。それも……幽霊などのそうゆう類いだ。


「玖硫く~ん。行こ? ね?」


 甘えた様な声をだして葉霧を見る可愛らしい瞳。くりくりしている。


「悪いけど……興味ないかな。」


 葉霧は学園の女子達には優しい。

 ぴしゃっ! と、キツい口調はしない。


 やんわりと優しい微笑みを浮かべながらそう応えるのだ。


「え~? だってお寺でしょ? 葉霧くんのお家。」


(……だからと言ってオカルトに興味があると思われるのも困る……)


 退魔師……なのは言えない葉霧だった。



 ✣


「え? 楓?」


 葉霧は校門を出るとそこにーー楓がいたので驚いた。


 楓はいつもの……黒いロングパーカーに今日は蒼いトップス。

黒のデニム姿で立っていた。


 頭には勿論。キャップ。

 今日はデニム素材のブルーのキャップ。


「どうしたんだ? 珍しい。」

(雨でも無いのに……迎えに来るなんて無いよな?)


 ちょっと……嬉しい葉霧だったりもする。

 この突然な感じは。


 それに……出てくるのをずっと待っていたのだろう。


 葉霧の顔を見てとても嬉しそうにしたのだ。それはもう満面の笑み。


「葉霧! ちょっとデートしてかね?」


 楓はそう言うと葉霧の右腕に手を絡めた。


「は? デート? 何? 急に……」

(……それはそれで嬉しいが……。ん? 何か怪しい)


 葉霧はじろ~っと楓の背中を見る。

 モコモコしてる。

 背中の辺りが。


 それを見ると腕を抜いた。

 楓の手から。


「えっ!?」

「夜叉丸持って、デートっておかしいだろ。何? 何の用?」

(騙されるところだった)


 葉霧は途端に不機嫌になった。

 楓はぎゅうっと葉霧の腕を掴むとしがみつく。


「行きてーとこあんだ。」

「だからどこ?」


 葉霧の口調はザツ。思いっきり不機嫌だ。

 楓は隣でにこにこしてる。












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