フィル

 料亭の後のフィルは母星のフィルになってます。どうやら、フィルに乗り移ってから表に出てきたのは、あの料亭の時が初めてだったようで、一旦表に出てしまうと引っ込めなくなったのはウソでないみたい。オーストラリアの御両親に会いに行くときに困ると思うんだけど、


「フィルの記憶も残ってるから、なんとかなると思う」


 どうも人格融合型のようだけど、知らず知らずではなくて、スイッチを切り替えるように変わるみたい。とりあえずフィルは地球の生活を楽しめてるみたい。それだけ母星の生活は大変だったようで、普通に空気を吸えるだけでも嬉しいって感じかな。食べ物についても、


「母星も食糧難で、たとえればエッセンス食みたいなもので、味も素っ気もなかった」


 想像しにくいんだけど、どうも完璧に計算されたある種のパンみたいなものらしいのだけど、


「昔は様々な形態でバラエティに富んでいたってことになっているが、私が知っている範囲ではいつも同じものだった。食糧生産機の機能の維持が難しかったようだ」


 母星の食事はミサキの理解するところでは、食材を機械に放り込み、そこで様々な栄養素に分解して再構成するものだったみたい。再構成して出される食事は、本来なら様々なメニューになるはずみたいだけど、フィルの知ってる時代では同じものしか作れなくなったみたい。そのせいか、


「最初は食材が原形のままで出て来たのに非常に驚いた」

「不味かった?」

「最初は違和感があったが、それより食べ物の味がバラエティに富んでいるのに感動した」


 母星のテクノロジーの進化はすべて自動化されている点のようにミサキは感じてます。食糧生産機もそうですが、原料をすべて一旦分解してから再構成する手法が確立していたようです。それは、それで凄い技術と思いますが、高度の技術である分だけ、これをメインテナンスする技術も高度そうです。

 社会が安定していれば問題ないのでしょうが、星ごと潰してしまいそうになる戦乱が起ると、高度すぎる技術の維持が難しくなったぐらいの理解で良さそうです。フィルの話も、かつてはこうであった、昔は出来ていた話が多く、


「地球が遅れているのは間違いないが、はるかに暮らしやすい」


 それと母星は資源危機問題をテクノロジーで乗り越えたとしていますが、これもシンプルにはエネルギー効率を極限にまで良くしたぐらいに思えました。フィルのグループは秘密研究所に立て籠もれる幸運に恵まれましたが、そこにあったエネルギーだけで三世代を支え、さらに宇宙船まで打ち上げているからです。


 そんなフィルなんだけど、あの日からフィルの能力は急速に上がってます。それまでもそれなりに優秀だったけど、今ではジュエリー事業部でも屈指どころか、ミサキにも迫る勢いかもしれない。神としての能力が発揮されているぐらいでイイと思うのだけど、ユッキー社長は気になっているようです。


「ミサキちゃん、フィルなんだけど、ちょっと変わってる」

「そりゃ、地球人じゃありませんから」

「もちろんそうなんだけど、神としての能力の出方がちょっと気になる」


 それ以上は口を濁らせておられました。ミサキが気になっているのはコトリ副社長とフィルの関係。コトリ副社長はエレギオン発掘隊長をやられた時に柴川君を恋人にしていましたが、結局のところ別れたようです。副社長と大学院生では会うのも難しかったぐらいでしょうか。ユッキー社長にも聞いてみたのですが、


「お互いの恋愛には口出ししないのが二人のルール」

「でも敵対する可能性については」

「その時はデイオルタスと同様に始末する」


 思い切ってフィルに聞いてみました。


「夢のようだった」


 あちゃ、さすがコトリ副社長、早いわ。ただ気になったのは母星でも地球のような恋愛関係があったかですが、


「あったとは聞いている。だが、私の頃には女性が貴重過ぎて変わっていた」

「どうしてたのですか」

「まず厳重に審査された男性に生殖権が与えられる」

「生殖権?」

「そうだ。これが簡単には取得できないのだが、これを取得できた男性を女性が選ぶ制度だった」


 フィルの話では女性人口減少の歯止めが利かなくなっており、既に二割を切りそうだったとしています。そこまでになると、選ばれた男性を女性が指名する方式になっても不思議ないかもしれません。女性は子どもを産むために存在している訳ではありませんが、ここまでになると絶滅種の保護繁殖みたいな状況にも感じます。


「地球は良い。私には縁がないもの思っていた」


 そりゃ、良いでしょう。コトリ副社長は地球の女の中でも最上級になりますから、副社長で満足できなかったら・・・後はユッキー社長ぐらいか。ここまでオープンならとコトリ副社長にも聞いてみました。


「フィルは童貞みたいですけど」

「それでもいいわ」


 コトリ副社長は童貞なら童貞なりに、ベテランならベテランなりに楽しめるものね。


「デイオルタスの時みたいに燃えられているのですか」

「近頃少し」


 あれ? 変な返事だなぁ


「母星の神はやはりちがいますか?」

「地球の男に、あきたところよ」


 やられた。それにしてもピンクレディのUFOを踊りながら出してくるとは不意打ちでした。でも副社長とフィルが恋愛関係なのは都合が良いかもしれません。コトリ副社長は燃え出すと強烈ですし、溺れこむように相手を愛しますが、そこまで熱中していても相手を冷静に観察するのは忘れません。デイオルタスの時に思い知らされています。


「でもね、気になる」

「社長もそんな事を仰られていましたが」

「コトリも同じ意見よ。とりあえず初期成長ぐらいに見れる可能性は残るけど、注意は怠れないわね」


 一万年前に送られた母星からの流刑囚は、なんらかの理由によって人に移れる能力が発生し、それ以外にも様々な能力を獲得しています。これはコトリ副社長の仮説ですが、とくに能力の方は、いきなり現在の能力を獲得したのか疑問が残るとしています。ここ何千年間は変わっていないのは、魔王やデイオルダスから確認できますが、能力を獲得した初期には成長期があった可能性をコトリ社長は指摘されています。


「仮に成長したら、どうなるのですか」

「料亭で見た時はミニチュア神程度だったけど、使徒の祓魔使ぐらいになってるわ。このペースだと・・・」


 ここでコトリ副社長も口を濁らせてしまいました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る