私が悪魔に取り憑かれた話。
桃源
第1話 悪魔との初対面。
私は仕事が好きだった。
全てにやりがいを感じていた。
『楽しい』という言葉がぴったりだった。
ただ、職場の上層部は『昭和の人』という感じで頭が硬い人間が多かった。
不満なんて、それだけだった…。
「おはようございます!」と大きな声で朝は始まる。
私はイベント屋の仕事をしている。イベント屋って何の仕事かとよく聞かれるが、イベントを運営する手伝いをしているようなところだ。
俗に言うアルバイト屋さん。
私は18歳の頃からこの会社でアルバイトをしていた。始めた頃は毎日が楽しかった。
同年代の友達。気づいたら後輩もどんどん増えて、そこらのバイトよりも稼げる。
私の地元は愛知県。でも昔から音楽が好きで、高校生の頃に見た憧れのアーティストのコンサートが忘れられなくて、どうしても業界に関わる仕事がしたかった。その為に18歳で単身、上京したのだ。
実家は特に裕福でもなく、どちらかと言えばお金は無かったのかもしれない。
本当は専門学校に行きたかった。その道の勉強をしたかった。
だが母親に「そんなお金はない」の一言で断られ、何の頼りもなくアルバイトのサイトだけを見て、ここで働くんだ!と上京した。
アルバイトを始めて1年で自分がアルバイトの中ではチーフと呼ばれるクラスになり、その数年後には、社員にならないか。と声をかけられた。
私の答えはもちろん「YES」だった。
入社したのは25歳。普通に考えれば遅い。
だが私には自信があった。誰よりも仕事が好きだと思っていたからだ。
「今日もてっぺん越えるなぁ〜」
と業界人ぶって0時過ぎに業務が終わるのを確信していた。
「お前最近大丈夫か?」
と声をかけてきたのは直属の上司のチンパンジーみたいな『おじさん』。
「何がですか?終わるの遅いのなんか当たり前だし慣れてますよ?」
私はきょとんとした顔で返す。
「いや、なんでもないならいいんだ。」
とおじさんは去っていった。
おじさんとはアルバイトを始めた初期からずっとパートナーとしてやってきた。
私は今、入社して3年。28歳だ。
トータルの付き合い10年。もちろん社員に誘ってくれたのもこのおじさん。
仕事のパートナーでもあり、一回り年齢が離れた親友でもある。
私はその日の現場が終わると会社に行く。
現場で使用した備品を戻す為。
その後はもちろん終電も無い。今日は明日の別の現場に行く為に必要な備品を追加して、車で帰宅する。
愛車は会社のハイエース。女の私がこの車を乗り回すのに多少時間はかかった。
今となっては中型トラックだって運転出来る。
「ふぁ〜あ。」
帰りの車中。時間は2時半。
「今日も遅くなったなぁ。明日6時半起きなのに。急いで帰って寝よう。」
こんな毎日。でも楽しかった。だからこの生活が私の普通だった。
「あれ?」
ふと気づくと、いつも走ったことの無い道。
「ここ、どこだ?」
カーナビに目をやると明らかに自分の家を通り過ぎていた。
まさか…運転中に寝てしまったのか?
好きな音楽が爆音で流れる車内。途中の曲の記憶が無い…。
いや、そんな事はない。そんなはずがない。
今まで無かった。居眠り運転なんてしたこと無かった。
「…さすがに疲れてんだな。帰ろう。」
眠気覚ましのガムを口に放り込み、目をパッチリと開けて、少し汗をかいた手でハンドルをギュッと握り、Uターンをした。
しっかりとナビで家までの道を確認しながら進む。
その日はそのまま家にたどり着き、着替える間もなくベッドに倒れるままに眠った。
…そう。今思えばこれが私と悪魔との、最初の対面だったのだ。
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