第11話 秘密があったら暴いてみたくなるもんらしい

「そう言えば、来週からGWか……陽菜と有彩は何か予定とかあるのか?」


「あたしは一応家族で出かけることになってるけど、今年はどうしようか考えてるところー」


「私は特に何も……強いて言うなら小説を書くことぐらいです。理玖くんは?」


「俺もこれと言って特に予定はないな」


 GW中なんてどこに行っても人が多いことが分かり切ってるんだから、なんとなく出かける気にはならない。

 そりゃ友達とかと旅行計画して出かけるとかなったら話は別だろうけど。


「……お? 電話だ。遥から?」


 ローテーブルの上に置いていたスマホが鬱陶しいぐらいにガタガタとバイブレーションのせいで音を立てて、早く取れと存在を主張してくる。


 スマホの画面に表記された名前は小鳥遊遥。

 なんかあったのか?


『もしもし、遥? どうした?』


『理玖? 今ちょっと時間大丈夫かな?』


 俺はチラリと陽菜と有彩に視線をやり、静かにしろというジェスチャーをする。

 2人が同時に分かったと言いたげに頷いたので、遥との電話に戻った。


『大丈夫だ』


『良かった、理玖はGWに何か予定ってある? ないならどこかに出かけない?』


『お、いいな。ちょうど予定どうしようかって思ってたところなんだよ』


 遥と出かけるのも結構久しぶりかもな……こいつ基本的に部活で忙しいし、最後に遊んだのって春休みぐらいじゃねえか?


『あ、そうなんだ。それならちょうど良かったね』


『ああ本当にちょうどよかったあっ!?』


『えっ!? なに!? どうしたの!?』


 陽菜のやつくしゃみしそうになってやがるっ!? 有彩!! 頼むから抑えるか部屋の外に連れ出すかしてくれ!!


 アイコンタクトを送ると、有彩はコクリと頷き一歩目を慌てて踏み出した。

 よかったこれでなんとかなる……そう思った瞬間。


 有彩がローテーブルの角で脛を強打して派手に音を立てて転びやがった!!

 あいつ焦るとドジになるのかよ!!

 

 そして有彩の黒髪が陽菜の鼻先をくすぐり――。


『――くちゅん!』


 陽菜のダムはあっけなく決壊してしまった!! なにやってんだあの2人ぃ!!

 

『理玖っ!? なんか派手な音がしたと思ったら明らかに女の子のくしゃみが聞こえてきたんだけどっ!?』


『急に派手な音を立てて俺が女子みたいなくしゃみをしたくなっただけだから心配するな!! 何も問題はねえ!! 俺は元気だ!!』


『それ理玖がただの危ない人だよっ!? あと元気で何よりだけど今それ聞いてないから!! ……もしかして高嶋さんいるの?』


『……おう。悪いな、騒がしくて』


 最初から陽菜だけいるってことにしておけばよかった……。

 そうすれば変に隠す必要もなかったのに。

 というか有彩がまだ悶えてる……まぁあれは痛いよなぁ。


『ううん、高嶋さんもいるならちょうどよかったよ』


『ちょうどいいってなにがだ?』


『GWの予定。高嶋さんも誘う予定だったから』


 あーなるほど。

 でも、陽菜のやつ確か家族で出かける予定があるとかどうとか言ってたよな?


「陽菜、なんか遥がGWどこかに出かけないかって言ってるんだけど、お前どうする?」


「行くっ!! 家族の方は大丈夫だから!!」


『だ、そうだ。予定は改めて学校で決めるのでいいか?』


『えっーと、実は今、理玖の家の前にいるんだけど……』


『――待て、今なんて言った?』


『え? だからもう理玖の家の前にいるって……』

 

『……マジで?』


『うん、もうマンションが目の前だよ』


『悪い遥、今俺の家ではインフルエンザが流行っていてとても人を呼べる状況じゃないんだ』

 

『そんな局地的なインフルエンザないよ!? ていうか理玖1人暮らしだし、さっき元気って言ってたよね!? 今高嶋さんも来てるんでしょ!?』


『部屋が散らかってて人に見せられる状況じゃないんだ』


『さっきと言ってること違うよ!? でもそれなら片付け手伝うから、僕は気にしないし』


『――今、実は大人のDVDと本を部屋中に並べてお楽しみ中なんだ!!』


『本当になにやってるのさ!! ……さっきから理玖、誤魔化そうとしてるよね!! 一体何を隠してるの!!』


 言えるわけがねえ、まさか陽菜と有彩と同棲してるなんて……。


『とにかく! もう着くからね!』


『あっ、おい!!』


 ……まずいことになった。前って言うのがどのぐらいのことを言ってるのかは分からないが……陽菜はともかくとして有彩の姿を見られるのはアウトだ。


「小鳥遊君なんて言ってた?」


「……俺の家に向かっててもう既に目の前らしい」


「……それってまずい……ですよね?」


 ようやく痛みから回復したのか、有彩。

 いや、よく見なくても涙目だしまだ痛いんだな……って、落ち着いてる場合じゃねえわ!!


「まずいもまずい! 緊急事態だ!! 今から部屋を出たら鉢合わせる可能性もあるし、とりあえず自分の部屋に隠れておけ!!」


「は、はい!! わかりました!! 痛っ!!」


 ドタドタと有彩は大慌てで自分の部屋に走っていく途中で派手に躓いて転んだ……このドジっ子!!


「あたしは? ここにいていいんだよね?」


「陽菜はいるって説明したし、お前がいても別に不自然じゃないのが幸いしたわ」


 ……ん? でも異性の幼馴染が普通に男の部屋にいるのっておかしいような……?

 とか考えてたらインターフォンが鳴ってしまった。

 ……ぶっちゃけ処刑開始の時間を告げる鐘の音にしか聞こえねえ。


 リビングから玄関までの短い廊下が長く感じたし、飲み込んだ生唾の音が大きく聞こえた。

 どうして自宅でここまで緊張しないといけないんですかねぇ……。

 もう一度、喉がゴクリと音を立てたのを合図に意を決した俺はドアノブを静かに回して扉を開けた。


「――呼ばれて飛び出てなるちゃんだよー!!」


「うわっ!? 柏木!? おまっ……お前本当ふざけんなよ!? ショックで心臓が止まると思ったわ!!」


「あっはは!! サプライズドッキリは成功だね!!」


「……で? どうして柏木がいるんだよ?」


「実は電話してる時からいたんだけど、柏木さんが驚かせたいって言うから黙ってたんだよ。ごめんね?」


「ほうほう、ここが理玖君のお家ですか……お邪魔してもよろしいか?」


「帰っていただいてもよろしいか?」


 出来るなら今すぐお帰り願いたいと心から切実に思う! 有彩が部屋にいることがバレないかひやひやするし心臓に悪いから!!


「あれー!? なるちゃん!?」


「陽菜ちゃん、おっすおっす!」


 陽菜を見つけた瞬間、柏木は素早く靴を脱いで小走りで陽菜の元へ。

 ……今、柏木の目が一瞬だけなんか細められたのは気のせいか?


「えっと、僕もお邪魔していいかな?」


「……ここまで来たら帰れとも言えないしな」


 柏木には言ったけど。

 扉が開けっ放しになったままのリビングに入ると、柏木がきょろきょろと部屋を見回していた。


「……んー? 来て早々なんだけど、ちょっとお手洗い借りていい?」


「いいけど……」


「それじゃ借りるねー!」


「柏木のやつ、自由過ぎるだろ……」


「なるちゃんは元気だねー……ところで小鳥遊君、GWの話なんだけど、どこに行きたいとかはあったりするの?」


「んー、とりあえず……せっかくの連休なんだし、近場で集まって遊ぶよりも遠出とかどうかなって思うんだけど……」


 遠出かー、つまりは何泊かして旅行するってことも視野に入れてるってことだよな。


「理玖君理玖君! お手洗いだと思って開いたら脱衣所だったんだけど、なんで女性用の下着がカゴの中にあるの!?」


「お前は人ん家でなに発掘してやがんだぁ!!!」


 こいつよりにもよって最悪なもん見つけてきやがったぞ!! ええい、面倒くさい!!


「き、昨日陽菜がうちに泊まったからな……」


「へぇ、そうなんだ!……やっぱり2人って仲がいいんだね!」


「え? でも陽菜ちゃんが付けるにはちょっと小さ過ぎるような気がしたけど?」


 ――ガタッ!! ガタガタンッ!!


「何の音!?」


「き、気にするな! ただの風だきっと!!」


 さては有彩のやつ聞き耳立ててたな!?

 あいつ胸小さいの結構気にしてるっぽいし、多分、今の音は急に現実を突きつけられて胸を痛めてる音だ!!


「やっぱりそれ俺のだったわ!!」


「やっぱりってなに!? 理玖が女性用の下着を買ってた噂って本当だったの!?」


「あぁ!! 俺は買った!!」


「そんなに力強く言われても困るよ!? 僕理玖に対してどんな顔していいか分からないよ!!」

 

 秘密がばれるくらいなら、俺は進んで変態への道を歩もう……!


「まぁ、茶番は置いておいてー……理玖君? 玄関にある靴は一体誰の? さっきの物音といい、この家にもう1人いるよね?」


「……そんなわけないだろ?」


 靴!! そう言えば慌てすぎて見落としてた!! さっき柏木が目を細めたのは靴の存在を訝しんだからか!!


「ふーん……そっかぁ……なんてね! 隙あり!!」


「チェンジオブペース!? お前こんなことでバスケ部の技術と身体能力活かして恥ずかしくないのか!?」


 ちくしょう!! こいつやっぱバスケ部のエースって言われてるだけあるな!! 動きがスムーズ過ぎて見惚れちまった!!


 柏木は勢いそのままに有彩の部屋の扉に手をかけ、開け放った。


「……ど、どうも」


「竜胆さん!? 理玖、一体これってどういうこと!?」


 あぁ、ダメだ……もう隠し切るのは無理だっ!!


 有彩と陽菜と顔を見合わせ、俺は諦めてことの経緯を説明し始めた。


♦︎♦︎♦︎


「なるほど……それで同棲かー。なんか秘密を暴くようなことしてごめんね? どうしても隠し事があるって分かると知りたくなるのは悪い癖だよね」


「自覚があるならどうか治してくれ……事情が事情だから今回のことはどうしても言えない話だったんだからさ……」


「大変だね……3人とも」


「まぁいずれはバレると思ってましたし……バレたのが小鳥遊君と鳴海さんで良かったと思います」


「そーだね! ということで小鳥遊君もなるちゃんも言い触らさないでね?」


「うん。そういうことなら協力するよ。僕に出来ることがあればなんでも言ってね?」

 

「絶対言わないよー!」


 大丈夫だろうな……? 学校に行ったら既に噂が広まってたら俺は和仁たちに始末されることが確定するからな? 


 そこんとこマジで頼むぞ? あいつら嫉妬絡みだと何倍にもパワーアップして厄介なんだよ……。


「気を取り直して、GWの予定だけど……竜胆さんも来るよね?」


「えっ? いいんですか?」


「もちろん! 柏木さんもいいよね?」


「うんうん! 私も有彩ちゃんともっと仲良くなりたいし! オッケーだよー!」


「ありがとうございます! では、私もご一緒させていただきます!」


 まぁそもそもこの場に有彩がいるのに有彩だけ除け者にしてどこに行くか話し合うなんてそんなことする奴はいないだろ。


「で? 結局遠出する感じでいいのか?」


「せっかくの連休なんだし、あたしは遠くに行きたいかなー」


「でも、どこに行きましょうか……? 小鳥遊君と鳴海さんは何か案があったりしますか?」


「ふっふっふっ! なるちゃんにはとっておきの考えがあるんですよ、これが!」


「そうか。で、遥は行きたいとこあるか?」


「スルー!? 聞いてよ理玖君!!」


 いや勿体ぶるから、トリにしてやろうっていう粋な計らいだろ? 決してウザいとか思ってないからな?


「私の親戚が旅館やってるんだけど、そこに行こうよ! 景色も綺麗だしいいところだよー!」


「わぁっ!! それいいね、なるちゃん!! りっくん、そこに行こうよ!!」


「他に案もないしな……有彩と遥もそれでいいか?」

 

「うん。僕もそれでいいよ」


「私も。旅館なんて楽しみですね」


 騒動があったせいで、時間が殆ど無かったこともあり、細かい部分は学校で話したり、SNSで連絡を取り合って決めようってことになった。


 GWが楽しみだな……あ、和仁の奴誘った方がいいのか?


 ……まぁ忘れなければ誘ってやろう。

 別にいてもいなくてもいいが、声掛けなかったら確実にあとで襲ってくるだろうから。


 秘密はバレてしまったが、協力してくれる人が出来たって思えば……なんとなく肩の荷が下りた気分になった。

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