第6話 性別以外は完璧だよな
「りっくんりっくん、お弁当食べよー!」
「はいはい、分かった分かった」
月曜日、俺たち3人が同棲を始めて、初めての学校。
特に何も変わり映えはしなかった……とも言えないよな。
朝出る時は3人一緒だったが、陽菜はともかく竜胆まで一緒に登校してるっていうのは流石に無理がある。
だから、少しだけ早い時間に出て、竜胆には登校時間をずらしてもらうことになった。
この間、ショッピングモールでも柏木に3人一緒にいるところを見られているし、登校まで偶然3人揃った、なんて言い訳は使えないわけだ。
登校まで気を遣わないといけないなんて、想像より負担かかってるよなぁ……。
「相変わらず理玖と高嶋さんって仲が良いよね、僕もお昼一緒していいかな?」
「よっ、
「
「うん、ありがとう。今日はお弁当を作りたい気分だったんだ」
ごくごく自然に会話に混ざって、俺の前の席を陣取ったのは
低めの身長に中性的な容姿をしていて、パッと見は完全に女性にしか見えない系男子だ。
声も高いし、目もぱっちりしていて正直並の女子よりは可愛いが、本人はそれを気にしてる。
髪も少々長めで、同じ男の俺とは艶すら違う。更に女子力も高めで女子泣かせと俺の中で話題。
ちなみに部活はバドミントン部。
少しでも運動をして男らしい身体つきになりたいらしい。
「おぉ、やっぱ料理上手えな。なんかおかず交換しようぜ」
「あ、あたしもいい?」
陽菜と同時に弁当の蓋を開ける。
あれ?……この弁当って竜胆が3人分作ったやつじゃね?
――中身、一緒じゃね?
「……あれ? 理玖と高嶋さんのお弁当中身が同じだね?」
おかずまで被るのはよくあるが、この弁当に関しては作った人が同じなので、おかずの配置まで完璧に一致してしまっている。
「あ、あー。俺って1人暮らしだろ? だからたまに陽菜のとこのおばさんがこうやって弁当作ってくれるんだよ。なっ、陽菜?」
「う、うん! やっぱり1人暮らしだと栄養も偏るしね!? お母さんすごい気合入っちゃってるんだよね!?」
誤魔化す感じに言うのやめろ!!
なんか隠し事してるみたいに見えるだろうが!!
「そうなんだ。あ、今度理玖のお家に遊びに行きたいな」
「うんっ!! いいよ!! おいでおいで!!」
「……? なんで高嶋さんが歓迎するの?」
頼むからもう喋るな!! いつ口を滑らせるか分かったもんじゃない!!
……竜胆もめっちゃ心配そうにこっち見てるわ。
「り、りっくんの家はあたしの家も同然だからだよ!!」
「そ、そうなんだ……幼馴染ってすごいね」
「……なんなのお前、前世ガキ大将? お前のものは俺のものなの? 遥もこんな冗談真に受けるなよ」
……あのガキ大将は今も現役で空き地の主をやってますけどね。
前世も何もあれ架空のキャラだし。
「あはは、ごめんごめん。あまりにも自然に言うものだから本当のことなのかと思って……でも、2人って本当に付き合ってないんだね」
「はっはっはっ。……滅多なこと言うなよ遥。あんまり不用意な発言したら俺が男子共から睨まれるぞ? 今みたいに」
辺りを見回すと、首を掻っ切るジェスチャーをしてくる男子生徒、中指を立ててくる男子生徒、親指を下に向けている男子生徒が目に入る。
中でも目に付いたのが金属バットを片手に持っている和仁だが、あれはきっとモテずに未練を残した者の怨念みたいなものだからきっと見間違いだろう。
……そもそも金属バットやバールが教室に常備されてるなんてありえないことだしな。
「そもそも陽菜はモテるだろ? 誰かと付き合ったりしないのか?」
「え、えーっと……(りっくん以外に)興味ないかなぁ?」
「……(恋愛自体に)興味ないのか? 意外だな、そういうの積極的にいくタイプだと思ってた」
こいつそういうの好きそうなのに、友達とそういう話題で盛り上がってるし、自分のことは興味がないだけなのか?
「積極的にいった方がいいの? 本当に?」
「ん? そりゃそうだろ。お前可愛いって評判なんだし、積極的にいけば大体落とせるだろ」
「……りっくんも、あたしのこと可愛いって……思ってくれてるのかな?」
「なんでそんなこと聞くんだよ」
「いいから! どう思ってるの?」
「……まぁ、可愛いとは思う」
恋愛に興味が無いのに可愛いって言われるのはまた違うことなんだな……? 女子ってやっぱよく分からん。
「えへへ……りっくん、あたし可愛い? もっかい言って?」
「あーはいはい可愛い可愛い」
なんか陽菜がほにゃりとした笑顔を浮かべ、頬を両手で押さえくねくねと動き出した。
なんだってんだ? なんで遥がため息を吐いて苦笑いしてるんだ?
「りっくん! あたしもっと積極的にいくね!」
心地の良い温もりがある小さな両手でぎゅっと手を掴まれ、ジッと見つめられる。
「おー頑張れ、応援してるぞー」
カシャン、と音がした方を見てると竜胆が箸を落としたみたいだ。
あいつ意外とドジなのかな?
「理玖が彼女に求める条件ってあるの?」
カシャン、と陽菜と竜胆が同時に箸を落とす。
おいおい……お前ら2人揃ってなにやってんだよ。
……求める条件か、そうだなぁ。
まず、自分のことを好きでいてくれて、話が通じるタイプだな。
意思疎通が出来ないワガママなタイプは苦手だし。
動物みたいな猪突猛進型じゃない方がいい。
あとは見た目に気を遣えるタイプがいい。
言い方は悪くなるが、テレビとかでよく見かける不摂生が祟ったようなモンスターみたいな人とは付き合いたくない。
……ふむ、つまり。
「――まず、人間の女性であることだな」
「何を想像したらその解答が出てくるの!?」
俺、遥が大声を上げるほど変なこと言ったか?
……まぁいいか。
「次の質問! りっくんは見た目的にはどんな女性が好き? 髪型は? 性格は?」
「待て待て待て!! そんな1度に聞かれても答えられるか!!」
なんでこいつ弁当食うのそっちのけで俺に食ってかかってんの!?
「……とりあえず、小柄な方が好きだな」
「やった! それから?」
今のやったはなんだ?
おいなんか遥がすげえ微笑ましいものを見る顔してんだけど?
「髪はまぁ本人に合ってればいいし、性格は騒がし過ぎるのは苦手だし、暗過ぎるのも苦手」
「えと、ちゃんと時と場合を考えて動ける人ってこと?」
「遥の言う通りだ。極端過ぎるのは付き合い辛そうだし」
……ん? そうなると……。
「あぁ、ちょうど遥みたいな性格の奴が好きなのかも知れないな」
「えっ!? りっくん!?」
遥は俺の言葉にしばらく目を丸くしたまま固まっていたが、ジワジワと頬を赤くして、口を開いた。
「僕たち……その、男同士だよ?」
「いや分かってるって、もし遥みたいな性格の女子がいたらいいのになって話だ」
料理は上手いし、会話も続く、容姿も良ければ性格もいい……あれ? 本当に遥完璧じゃね?
「り、り、り、りっくんのバカ!!!」
陽菜が食べかけの弁当を置いたまま教室内から走り去っていった。
「なんなんだよ……あいつ」
「えーっと……こればっかりは高嶋さんに同情しちゃうかなー、なんて」
「遥は陽菜の気持ちが分かるのか? 教えてくれよ」
「分かるというか……理玖が鈍過ぎるだけというか……でも、こればかりは理玖が気づかないといけないことだと思うから、言えない」
「そういうもんなのか……」
スマホが震えたから見てみると、竜胆からSNSでメッセージが来ていた。
『――理玖くんのバカ』
なんで竜胆まで!?
えー……? マジで分からん!!
「はぁ……俺ちょっと自販機行ってくるけど、何かいるか?」
「じゃあ、烏龍茶をお願い。あ、それとね?」
チョイチョイと手招きされたので、遥に耳を貸す。
なんかいい匂いするし、耳元に吐息が当たってめっちゃこそばゆい。
「――僕もね、僕がもし女の子だったら理玖みたいな人が好きだよ?」
「なっ!?」
驚いて、慌てて距離を取ると遥にしては珍しい悪戯が成功した子供のようなやってやったという無邪気な笑顔をしていた。
「だから、冗談を真に受けんなって言っただろ!? 烏龍茶な!!」
「はーい、よろしくね!」
手を振られ、俺は教室から出る。
さて、今から俺はやらないといけないことが2つある。
……1つは遥と俺の分の飲み物を購入すること。
――そして、もう1つは……。
ガラリ、と自分のクラスの扉が開く音がして、振り返るとにこやかな笑顔の和仁が金属バットを片手に装備して立っていた。
とりあえず、笑い返して、俺は全力で走り出した。
2つ目はこいつらから逃げることだっ!!!
「俺たちの前でラブコメってんじゃねえぞ、ごらぁ!!!」
「今日という今日は山に埋めるなり海に沈めるなりしてやるぞ、おらぁ!!!」
「各員俺に続け!! あのボケナスに地獄見せたんぞぉ!!!」
ラブコメるとか変な造語を作るんじゃねえ!!
俺は絶対に生き残ってやるからな!!!
――このあと、めちゃくちゃ廊下を走り回った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます