3話 お風呂
「……はぁ、あれがこの世にまだ残ってるのか……」
イリーナのやつ、とんでもない置き土産を残してくれたな。
妙に腹の立つ顔で『ふっふーん♪ どうだ! 参ったか!』と言っている姿が目に浮かぶ。
「ねー、おとーさん。ここ、お風呂って付いてないのかにゃ?」
姫芽が臭いを気にする素振りをして聞いてきた。
「そんなもの、この世界の平民街の宿屋に付いてると思うか?」
「うーん。そう言われてみればそうにゃ」
とは言え、こいつらも一応は女子だしなぁ……何日も風呂に入れないのは辛いか。
「《
……起動しない。
マジか。この世界、俺の力の殆どが制限されてる。いや、それとも他の原因が……? でも、今のところはそれしか考えられない……。
はぁ、取り敢えず、地球で作ってから保有している、神力を使わずに扱える世界ならどうだ?
「《開け、異界の門・我は零の神官なり》」
よし、開いた。
「んにゃ? おとーさん、その穴……」
「俺が何時も使ってる異界への入口だ。この中に風呂を作っておいたから、二人とも入っておいで」
「「──!? いいの? やったぁ!」」
こうしてみると、此奴ら、本当に姉妹みたいだな。
さて、彼奴らが風呂に入りに行ったところで愛剣の手入れでもするか。
まぁ、手入れと言っても、神力で作る聖剣的な何かだから、俺の魔力とか神力とかに馴染ませるだけだけど。
「よし、おいで、レーヴァ」
そう言いながら、久しぶりの錬成だから、ゆっくりと慎重に、丁寧に錬成していく。
赤黒い光を放ちながら徐々に形造らせる。
……うん、ここまで光が出るって、かなり変換効率が悪いな。
もうちょっと努力しないと。
暫くすると、白を基調に柄や刀身の一部に赤色の線の入った、神剣:レーヴァテインが出来上がった。
「変換効率がちょっと悪かったけど、まぁ、基準は越したな。……久しぶり、レーヴァ」
俺の言葉に赤い光を明滅させて応えてくれるレーヴァ。
ん? なに? なんで私を抱きしめて寝ないのよ? いや、剣を抱きしめて寝るとか、それは最早ただの変質者だろ。
ああ、わかったわかった。それじゃあ、お前が擬人化出来るようになったら考えてやるよ。
その代わり、俺は擬人化する手伝いはしないからな?
なんか、すごく舞い上がっている感情が伝わってくる。いや、剣が擬人化とか、某戦艦擬人化ゲームよりも難しくねぇか?
ああ、いや、でも、地球には神器とかを擬人化してたゲームもあったし、出来ない事は無いのか?
おっと、はいはい、ごめんごめん。撫でてやるから、拗ねないでくれ??
刀身を震わせて不服を申し立ててくる自分の愛剣に苦笑いをしながら、刀身を優しく布で拭ってやる。
うん、いい反射だ。
「おとーさーん、お風呂、一緒に入るにゃ??」
「黙って二人で風呂に入っとけ!」
異界の入口から顔だけを出してそんなふざけたことを言ってくる娘に言い返してから、服を脱いで水で濡らしたタオルで体を拭く。
……人の前で服を脱ぐなって、お前は剣だろうが!
無駄に人の心なんて身に付けやがって……。
「うん、こんなもんだろ。寝るか」
俺は、二人が風呂から上がってくるのを待たずに瞼を閉じるのであった。
世界渡りの神 月夜桜 @sakura_tuskiyo
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