ネオン
五丁目三番地
第1話
西洋の建築は全てを破壊し尽くしてから作るらしい。今の私に似ている気がして、興味なさげな顔をして先生の声だけを捉え続けた。助手席からじゃ近すぎて、ピントの合わなかった先生の一重まぶたは窓側最前列ならよく見える。黒板を見てノートを見てだんだん眠くなって、ゆっくりと瞼が落ちる。そのまま眠ってしまう前に先生の声で目が覚めた。心地よい眠りを邪魔されたから仕方なく顔を上げて、恨み半分で先生を見つめると目が合ってしまった。どうしたの、なんて言いたげな顔をしたから恨み半分で見ていたことがなんだか可哀想になってしまって、顔を伏せてノートを枕に目を閉じる。私の態度を先生がどう受けとったか、私には一生分からない。子供の気まぐれだと納得したのか資料集をめくるよう指示を出した。52ページ。2と4とそれから少しの公約数。白いチョークが小気味よい音を立てて、少し右に傾いた字が黒板に並んだ。
「西洋は水を粘土のようにねじ曲げて魅せることが美しいとされていた事がこの文章から読み取れます。」
指三本分くらいの隙間が空いた窓から風が流れて、私の耳のをくすぐる。先生の黒い短髪は揺れたのだろうか。顔を伏せた私に見えることはない。授業の後、黒板に残ったチョークの文字の白さで昨日車窓から流し見たガードレールを思い出した。
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