第50話

夢・幻(まぼろし)

 

 再び時は流れる。

 王を失った人々は、次なる王を立てる準備に取り掛かる。

 王は島(くに)の支柱であり、同時にまた何の力も持たない存在。

 恰もそれは傀儡のごとく、形により統治する。

 存在することが全てである雅なる者。

 けれど、この島の王には、正統な後継者がない。

 王と后の間、その嫡子はいない。

 唯一、王と血縁のある者、それは女のみ。

 砂人をその母に持つという出自…

 その出自を問題にする者。

 それ以前に、男でない者が王となって良いのかと疑問を呈する者。

 しかし…

 一時なりとも、王のない島は存在し得ない。

 王を立てることを職として担う者たちは、女を王として宮殿の玉座へと迎え入れる。

 図らずも果たされる王の思い。

 砂人も、また人なり。


 私は、王となった女の意向もあって、女の宮殿に留め置かれる。

 そして、ほどなく、王の「連れ合い」として扱われるようになる。

王の急逝による「王の不在」を招かぬよう…

それ故か、それとも、最早、出自自体が問われぬが故か、私の出自もまた問われない


 やがて、私たちはみなの期待どおり、子を設けた。


 さらに時は流れる。

 

 私たちの子は成長し、理に長けた若者となる。

 一方で、若者の冒険心もまた盛ん。


 彼は、空を渡り、父である私の故郷を訪ね当てんと言う。

 己が出自を確かめんと…。

 外でもない自らが希求するところの出自を。

  

 私にとっては、既に、いや、もとより意味をなさない「出自」ではあったが。


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